Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
電気生理学的検査は神経・筋疾患の診断上不可欠のものである.ことに筋電図検査と末梢神経伝導検査はルーチンの検査手技として多くの施設で施行されている.しかし,我が国での現状をみると,その方法,意義,解釈についてまだ改善されるべき面があるように思われる.
昨年の脳波筋電図学会学術大会において,馬場らは我が国の代表的神経内科系専門誌である「臨床神経学」および「神経内科」両誌の神経筋疾患症例報告で,針筋電図所見がどのように記載されているかを調査している.32%の論文では単に「神経原性変化」や「筋原性変化」とのみ記載され,その所見の内容には全く触れられていなかったという.特に弱収縮時の運動単位検索が不十分であり,干渉波や随意収縮増強時の運動単位参入様式(recruitment)の観察がほとんど無視されていると報告している1).彼らは神経伝導検査所見についても同様の検討を加えている.神経伝導検査所見が記載されている症例報告85編中,MCV(運動神経伝導速度)やSCV(感覚神経伝導速度)の記載はあるが,誘発筋電位振幅やSNAP(感覚神経活動電位)振幅が述べられていない報告がそれぞれ88,89%にも達しており,軸索障害型病変の把握が不十分になっている可能性があるとしている.また脱髄性病変の評価に関しても,伝導ブロックや波形変化についての観察や記述が乏しく,改善の余地があることを指摘している2).
一般に患者を対象とした生理検査においては,評価されるべき側面が多数存在し,何をパラメーターとするべきか問題となることも少なくない.記録された活動電位その他の波形を分析することは極めて重要であり,多くの情報を得ることができる.例えば,末梢運動神経伝導検査では誘発筋電位の立ち上がり潜時の差から伝導速度を計算しているが,これは最も速く伝導する線維の速度を示しているに過ぎず,他のより遅く伝播する線維の機能の評価は波形分析によって可能となる.神経線維が変性・消失し,伝導速度の範囲が狭くなると,誘発筋電位の持続時間(duration)は短縮する.逆に速度の遅い線維がより遅延するような場合には持続時間の延長,すなわち時間的分散(temporal dispersion)が生じる.この時間的分散の程度は,最も速い線維と最も遅い線維の速度の差が大きいほどより顕著となる(図1).
本稿では通常施行されている電気生理学的検査における波形分析の原理・意義について,一部最近の知見も含めて概説してみたい.
Copyright © 1990, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.