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はじめに
神経心理学が臨床上対象とする症状群の中で,失語症はその障害の性質上,比較的はやくからリハビリテーションの領域でも独立して発展してきたといえる.しかし,脳卒中後片麻痺患者などのリハビリテーションにおいて,見かけ上の有利さ(失語がなく利き手が残されている)に反し,左片麻痺患者の適応の悪さが指摘され,そこにおいて従来劣位と称されてきた右半球機能の重要性およびそれが損傷されることにより起こってくる症状群が注目されるようになったのは,30年程前のことからである1,2).失語学Aphasiologyと呼ばれる程に発展した研究領域を有する左半球に比較し,評価法のみならずその治療論においても,右半球はその別称のとおり劣位であったことは否定できない.
このように右半球機能の解明が遅れた理由として考えられることは,Luria3)が指摘しているように,右半球の機能構造が左半球に比べ十分分化していないこと,そのため,右半球損傷によって引き起こされる症状が明確でなく,見えにくい,とらえにくいことにあるといえるかもしれない.
しかし,最近の脳科学のめざましい発展により,右半球機能の解明がかなり進んできた事も事実で4,5),そのことは,80年代に入り盛んに出版されてきている神経心理学的リハビリテーションに関する著書の多くが,右半球損傷により引き起こされる行動障害,その評価法,さらには治療・訓練の試みにより多くのページを割いていることに反映されていると言える6-10).
本論文では,現在まで明らかにされている右半球症状を概観し,それらの症状が日常行動にどのように反映されるのかを考え,そのリハビリテーションの可能性を論じてみたい.
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