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はじめに
社会保障は,それぞれの国や時代において流動的に多様的に形成されてきている.
一般的には,人間の一生にわたる生活の安定を確保するための国,地方自治体の公的扶助をさしている.その中味として狭義的には,社会保険,国家扶助,医療および社会福祉および公衆衛生が含まれ,関連制度として,住宅や雇用対策などが含まれている.したがって,医学,教育,社会,職業などの全ての分野にまたがって全人間的復権を目指すリハビリテーションにとって,社会保障は表裏一体となって切離すことのできないものである.
さて,わが国における社会保障の実績を数字の上でみると,毎年社会保障費は,医療と年金の給付費の大幅増加をみて,昭和58年では31兆9,016億円となっており,国民所得に対する割合は14.46%を占め,このままでは今後も確実に増加すると予想されている.これを昭和45年を基準にして,昭和58年度までの増加率をみると,医療が6.3倍,年金が16.9倍,その他が7.5倍となっている.特に,最近では,社会保障費に占める年金の比率が50%に近づきつつあるが,この主原因は,欧米に比較して短期間に速いスピードで世界長寿国民となっており,毎年100万人ペースで増加している新年金受給権者によるものである.一方,国民医療費は,昭和53年まで二ケタ,54年以降は一ケタの伸び率で推移し,国民所得に対する割合も次第に増加し,昭和58年には6.4%になっている.その規模は,14兆5,438億円,国民平均年間12万1,700円である(昭和58).医療費増大の要因は,①高齢化による進展による有病率の増加,(70歳以上の1人あたり平均医療費は70歳未満のものの5.2倍).②国民医療費に占める成人医療費の割合の増加,(医療費に占める成人医療費は60歳代では50.8%,70歳以上では74.8%).③医学医術の進歩(NMR-CT,超音波メス,β型インターフェロンなどの保険制度への導入)④医療供給側の増大(毎年病床数4万ベッドの増加,新医師5千人の就業).⑤医療需要側の増大(国民医療費に占める保険の患者負担は8.8%に減少).⑥現物出来高払方式による医療費(自由診療体制下での積上げ方式による薬づけ<医療費中の薬剤費比は35.1%>,検査づけ<同12.5%>),入院期間の異常な長さ(一般病床で39.2日,老人病院は82.7日).⑦医療型ナーシングホームの不足,在宅福祉サービスに関与するマンパワーの不足などがあげられる.
このような経済成長下での財政危機から,第二次臨時行政調査会は,わが国はすでに欧米の福祉水準に到達したとの認識から,その基本答申(昭和57年)の中で長寿社会を迎えての社会保障の費用増大への対応について触れ,租税負担と社会保障負担とを合わせた全体としての国民の対国民所得比の負担率は.現状の36%程度より増加せざるを得ないが,現在のヨーロッパ諸国の50%前後の水準よりはかなり低位にとどめることが必要であると指摘している.このためには,財政の健全化,医療費の伸びの抑制,適正な受益者負担など,国民の負担増への要請,施設ケアより在宅福祉,在宅医療への転換が前提であるとしている.確かに欧米においても経済成長が減速化し,その結果としての失業によりもたらされた広範な財政危機に対して,各国ともその対策に苦慮しており,医療保障費用など社会保障費用を抑制するための広い範囲にわたる特別措置などを採用してきている.しかし現実に,北欧や英国のリハビリテーション(以下リハと略)医療や,施設地域ケアの現状を垣間見た筆者の印象からしても,マンパワー,処点施設など,地域リハ活動を支える基盤に,豊かさを感ずるのが常で,経済成長を目指してきたわが国が,社会保障において,欧米先進国とは比較にならぬほど大幅な遅れがあることをまず認識しておく必要があろう.その原因の一つとして,先進各国における昭和50年代と60年代から70代後半まで続いて非常な発展をとげた社会保障の蓄積と,ゆるやかな高齢化社会への移行があるように思われる.この時代に給付水準が引上げられ,障害年金の受給対象者が拡大され,医療保障制度も急速に改善され,これが現在の地域におけるリハ資源の余裕さ,豊かさとなり財産として残っているように思われる.
地域リハ活動には地域における組織,拠点およびマンパワーが必要であり,国内におけるパイオニア的な活動,兵庫県における地域リハ活動,リハ協議会の現状についてはすでに報告した.そこで,今回は,このような社会保障制度の曲り角において,まず,福祉先進国における地域リハに関連する現状を認識した上で,地域リハ活動についての基本的な考え方,地域での展開上の問題などについて私見をのべてみたい.
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