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はじめに
人間はだれしもが,本来,それぞれの家庭と地域社会で生活をするのが自然であるという認識は,今日,世界中のどの社会においても,国民的なコンセンサスを得ていると思われる.
ところが,原則論ないし総論的にはそうであっても,障害児・者それぞれ個人の各論になると,今日まだ,このコンセンサスの実現は,必ずしも容易ではない.
ごく近年までわが国では,心身障害児・者の多くは,教育不能という判断のもとに,就学猶予ないし免除の措置がとられ,また家庭の崩壊を防ぎ,あるいは障害児・者を保護するという目的で,施設に収容するというのが,その基本的・原則的な療育や対策のあり方であった.
障害児・者は多くの場合,「社会」の外で「保護」されるのを,われわれの社会は常識としてきた.
そういう時代のわが国の通園施設は,就学期を迎えて就学を猶予・免除された障害児の一部が,通所する機会を得ていた療育の場であり,障害児のためのDay Care施設とともに,多くの通園希望の待機児童を抱えていた8).
ところが近年に至って,障害児・者の日常生活や療育(治療・教育)に関して,北欧社会から正常化(normalization)の意義が強調され2,15),アメリカをはじめわが国でも,全障害児を対象に学校教育が実施されるなど3),障害児・者に対する社会的認識や対応は,急速に変化を迫まられることになった4,7).
障害者の生活を正常化しようとする社会的風潮のなかで,障害児・者は可能な限り施設よりも地域社会で,生活や学習ができるようにするべきだという気運が高まり,いわゆる地域ケアー(community care)への志向が強くなって,通園施設の役割が改めてクローズアップされることになった.
ところが一方,養護学校義務化にともなう障害児全員就学の実現は,通園施設児の幼年化を促す一方で,統合教育(integrative education)を教育の本流(main streaming)と考える風潮を沸騰させ,就学前の障害幼児の保育園や幼稚園における統合保育を推進する結果となり,障害児の通園施設は,その機能はもとより存在の意義そのものまで問われることになった.
全員就学,統合教育(保育),地域ケアーなど障害児・者の教育やリハビリテーションへの試みが,試行錯誤を重ねながらも,一定の成果を上げながら,新たな視点と展望を開拓しつつある今日,編集部の求めに応じて,精神薄弱児通園施設の機能と意義について,再検討する.
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