Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
障害者が居住する住宅や公共建築物,公共交通機関などの生活環境の良否がリハビリテーションの成否に大きく関わることはずっと以前から知られていたが,公けの場で具体的に論議されたのは昭和40年代に入ってからである.すなわち昭和41年の厚生省身体障害者福祉審議会の答申において生活環境改善の指摘がなされたのが最初であり,その後昭和45年の心身障害者対策基本法,昭和47年の中央心身障害者対策協議会の中間答申など矢継ぎ早やに環境整備の必要性が指摘された.しかし具体的に行政担当者が注目し出したのは昭和40年代後半であり,最初の施策は昭和48年度から制度化された「身体障害者福祉モデル都市制度」であった.このように生活環境の整備はまだまだ新しい分野である.したがって,思想的にも十分行きわたらない部分もあるし,技術てきにも未解決な部分もあり,全体としてまだ発展段階の時期といえよう.従って当然のことながら,整備の進捗状況に関する報告はあっても「評価」に関する論文や提案は皆無である.これを機会に今後評価基準等を検討していきたいと考えているが,生活環境の評価は先の論者の場合とは異なり,特別の状況にあるように思われる.すなわち,
①すでに述べたようにまだ新しい分野であるために現在では,いかに多くの関係者に生活環境整備に取り組んでもらうかの「普及」に力点を置いており,評価方法等は具体的に考えられていない.
②評価の基準が作られていないのは,われわれ研究者の怠慢かも知れない.しかし異なった見方をすれば,建築学分野では材料や設備等の個々の性能評価はあっても,建築物は個々に性能を分析して評価することはあまり行われない.一般には生活空間全体としての評価が通常であることと,建築は自然科学とは異なり科学と芸術の融合体としての評価が通常であるので,評価そのものの基準が設定しにくいことにある.したがって,ADL評価のように個々の動作をとりあげて評価するような考え方が生れにくい.
③生活環境とは物理的環境と人的環境とから成り立っており,しかも両者を切り離して別個に評価することは意味がない.しかし物理的環境はある尺度を作れば評価が可能となろうが人的環境の評価は難しいというより不可能に近い.したがって生活環境全体としての評価はかなり困難である.
④生活環境評価は,使用者たる第一次的な人間自身の評価ではなく,周辺の生活環境が人間個人個人の能力をどのように踏まえて作られているかという評価であり,評価の難しさがある.
このような状況の中で生活環境の評価について記すことは的はずれでいささか暴論かも知れないが,日頃筆者が生活環境について感じていることのうち,多少なりとも評価の基準策定にかかわりのある部分について敢えて私見を述べさせていただき,関係者の御批判を仰ぎたい.
なお,ここでは生活環境を「住宅」と「公共施設(主として建築物に絞る)」に分類して論を進めることにする.これは,「住宅」環境を整備するときには障害者の持つ障害内容をそのまま反映させる手法を採るのに対し「公共施設」環境整備の場合は,不特定多数の障害者利用を前提とするために最大公約数を採らざるを得ず,生活環境整備の考え方に明らかに差異があるからである.
Copyright © 1984, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.