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まえがき
従来より中枢神経系の諸疾患に対して行われてきた種種の検査の中で,特に反射を指標にした神経学的検査の表記法では,正常反射の反応程度を基準にしてそれより高進,減弱または消失した反応を,(++),(+),(-)などの記号で段階表示する評価法や,打腱器により生じた腱反射の大きさを加速度計や圧力変換器などを用いて機械的に記録する方法が試みられている1).また,Garcia-Mullin2)は片麻痺患者を用いてH波の最大振幅,H/M比,回復曲線などについて発症よりの経過期間を,48時間以内,3~14日,15~90日および90日以上の4群に分類して比較検討した.
Liberson3)は同じく片麻痺患者のF波について,振幅の分布,平均振幅比,最大振幅比を患側と健側とで比較した.しかしこれらの方法では患者の分類上発症期間が同一でも神経学的症状に著しい差があったり,片麻痺のいわゆる健側が厳密な意味で健肢でなかったりする.また,被検者側の諸条件の違いが大きく,同一検査手技として基準化することに問題があった.そこで著者らはこれらの反射の客観的な評価方法と,検査によって再現性のある結果が得られる方法を見出すことを目標として本実験を考察し始めた.その後,この方法の応用として,運動麻痺の評価や治療に用いられる種々の手技が脊髄レベルで反射活動に及ぼす影響を知った.そこで特に姿勢保持のための筋収縮,四肢・躯幹の随意収縮や皮膚表面からの機械刺激によって影響された脊髄反射の変化を定量的に表現できないかという点に注目するようになった.
1910年にHoffmann4)がH波について記述して以来今日まで経皮的電気刺激を用いた誘発筋電図法は,1955年本間5),1956年藤森6)により本邦に導入され,研究,臨床両面からかなりの発展をとげてきた.1965年河野7)1968年松下8)は刺激強度とM波,H波の振幅の関係,同一刺激強度で連続して得られたH波の波高を測定し度数分布図を描き統計学的考察を加えたり,最大のH波(Hmax)の振幅の経時的変化などについて報告している.近年,H波が生体の意識レベルなど中枢の活動条件によって振幅が変化するという報告9)があり,さらに測定時の姿勢と検査室の環境により安定した記録が可能だったという報告10)もある.また別に,随意運動開始時の反応時間とH波の変化から,運動開始直前に現われるsilent periodにみられる抑制が上位中枢からのH波の抑制と同じであろうということなどについての研究11)もなされている.
本川ら12)はこのH波が動物でみられた単シナプス反射による反射波であり,特にヒトにおいて前柱細胞の興奮準位をある程度定量的に観察できるものであろうと書いている.しかし,その後の報告をみても前柱細胞の興奮準位が,固有受容性神経筋促通法(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation techniques,以下PNFと略す),四肢・躯幹筋群の随意収縮その他各種の姿勢反射肢位,機械的振動刺激などによりどのように変化するのか,また,影響されたとしてもその程度を量的に表現した報告は松田13)を除いてはほとんどみつからない.このような研究結果はリハビリテーション医学における評価ならびに治療面に大きな意味を持つものであろうと考え本研究を行った.
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