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はじめに
最近の医学の著しい進歩により多くの障害が克服されてきたことは事実である.しかし,すべての障害がとり除かれたわけでなく,現在の医学的知識や技術においても解決されない多くの問題がある.特に日常診療活動を続けていると,知識や技能が増せば増すほど,白己の能力の限界と医学のもつ矛盾に気づかされるのである.たとえば,そのひとつが医師として患者さんの死(特に小児)に直面する時であり,いまひとつが治療後の後遺症に悩む人々と出会う時である.
産科学や小児科学のめざましい進歩と公衆衛生の知識の普及により,乳幼児期の死亡率が著しく減少してきたことは周知の事実であるが,その反面,生命はとりとめたものの,脳を中心とする後遺症を残したままの生活を余儀なくされる児童が多くなってきた.また,抗生物質の開発により,脳性麻痺はもちろん,染色体異常,先天性代謝異常やその他の障害を持つ児童の平均寿命も伸びてきている.しかし,このような医学の進歩により,逆に障害を持つ子供達も増えてきている.しかも,この障害を持つ子供達に対して医学的効果がほとんど望めなくなった時,この子供達にとって重要な課題は,どのような医学的治療を受けるかということではなく,どのような教育的指導を受けるかということである.
しかし,彼らに対して教育の場では,直接的な医療は必要ないとしても,彼らが障害による個々の特性を持つかぎり,教育学的方法論のみで指導することは不可能であり,その背景に医学的知識および考え方が必要であることはいうまでもない.ここに障害児教育における医学の必要性が認められ,また教育と医学の接点が不可欠なものとなるのである.そこで本稿は,まず最初に医学と教育の接点を考えるため,両者の違いを制度上の問題と方法論上の問題に分けて考えてみたい.
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