巻頭言
信ずるということ
矢谷 令子
1
1国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院
pp.313
発行日 1982年3月10日
Published Date 1982/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552104711
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「人を信ずることは人を救うことだ」とはおそらく私の光太郎との始めての出逢いの一節であったろう.その時の私には言葉自体は魅力的でありながらも何とも実感する処が得難く,親しむ詩ではなく,神秘な言葉として私の内に残った.そして時を経て高校生活も終る冬の日に,はたとこの言葉の意味が,解ったと思える経験をした.立ちすくむようにこの思いをかみしめて,噫,彼はこのことを詩ったのだと実感できたように思えた.まだまだ青いリンゴの味ではなかったろうか.それでも,またその後,度々,思いあたるふしの経験をしたが,いつも,むしろそこから教えられ悟される経験と云ったものであった.
また,こんなことも思い出される.それはある大学を訪れた米国の大統領が,学生にとり囲まれながら云われた言葉である.「神を信じ,友を信じ,そして自分を信じなさい」と,学生に語ったこの大統領は,遠からずして国民からの信頼を失って,ホワイト・ハウスを後にすることになった.
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