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はじめに
脊柱vertebral columnは脊椎spineと椎間板intervertebral discの交互の連結により人間をはじめとする脊椎動物の身体の中心的な支柱を形成している.俗にback boneと云うごとく体幹の支持帯として重要な意味を持ち,また脊柱のいろいろな部分がことあるごとに人間の行動動作や性格を比喩するのに使われたりしている.たとえば“首が廻らない”“腰がすわっている”などのごとくである.脳脊髄などの神経系や心臓脈管などの循環器系,あるいは胃腸,肝臓などの消化管系などに比較してその役割は生命の維持という点ではnon-essentialのようにも見え,運動器系とは云え静的要素が多い印象も受けるであろう.しかし脊柱が正常に機能せず,著明な奇形や欠損を生じた場合には人間としての行動は著明に障害される.脊柱自体に関する研究は今までにも解剖学的,組織学的にはもちろん生体力学的,運動学的あるいは生理学的にも研究がされて来ており,いろいろな興味深い成果が報告されている.さらには生化学的アプローチもなされ基礎医学的研究と共に臨床的研究も少なくない.そしてその多くは整形外科医により,また最近では神経外科医や神経内科医も興味を示している.そのように多くの実りある研究成果にもかかわらず脊柱をはじめとするいわゆる体幹の問題は運動器系の中でもまだまだ新知見を得る機会が十分残された研究題目の宝庫である.これは同じ筋骨格系でも手の問題などと比較してみるとよくわかるであろう.つまりまだまだ研究し検討しなければならぬ分野が残されており,また納得する説明がない点が多いということである.著者は脊柱,その中でも腰椎lumbar spineに関する仕事にしばらく取組んで来たが,未だに暗中模索のことばかりである.現在までの脊柱に関する知見を要約して以下数回にわたり記述し,諸兄の批判を仰ぎ,あるいは研究上の一示唆となれば幸いと考える.脊柱,脊椎,そして椎間板の解剖学上の定義は図示すれば図1のようになる.記述の内容は脊柱の発生学embryologyより入り,解剖anatomy,機能解剖学functional anatomy,運動学kinesiology,生体力学biomechanics,さらに生化学biochemistryへと進む.一方循環動態を主にした生理学physiologyや加齢現象agingも含めて概括的に議論を試みた.
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