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はじめに
骨格筋は過去に考えられていたほど静的な組織ではない.成熟した細胞でさえその型・大きさそして性質も比較的速い時間経過で変えていく.これらの変化は支配神経の切断・交叉神経支配・筋の非動化・腱の切断・仕事量の増大などによって正常な状態から逸脱した細胞に容易にみられる.生体中の正常な筋は神経やホルモンなどの外来因子の制御によりある動的な一定状態を保っている.しかし筋細胞それ自身の内にも自分自身の大きさや性質を制御する内因性調節機構が備わっていることが次第に明らかになりつつある.筋の活動は筋をその活動に適した筋に変え,筋の不活動は自分自身を萎縮へと導びく.すなわち positive feedback の機構を筋細胞自身の内にみることができるのである.
筋萎縮のモデルとして除神経筋が広く用いられている.運動神経はその標的組織である筋に対し3つの異なる方法で影響を及ぼしていると考えられている.①25)神経線維の興奮は神経末端に貯蔵された伝達物質,アセチルコリン(ACh)を放出する.放出されたAChは神経筋接合部にある筋細胞膜終板部の受容体と結合し,Na+およびK+イオンの透過性を高め,筋細胞膜を脱分極する.この終板電位が筋細胞膜の興奮の閾値を越えれば,まず終板近傍の膜に活動電位が発生し,それが筋全体に波及し,それにより筋は収縮する.放出されたAChは終板部にあるAChエステラーゼにより速やかに分解され一回の神経筋伝達が終了する.この効果は筋活動を意味する.②26)上記以外の機序でやはり神経末端からインパルスを介さずランダムにAChが放出されている.ACh量が微量であるため終板電位はわずか0.5mV程度で,徴小終板電位と呼ばれている.筋の興奮・収縮は伴わない.③37)神経末端から長期にわたりACh以外の物質,いわゆる neurotrophic factor(神経からの栄養的因子)が分泌されていると考えらている.Trophic factor は神経細胞体で合成,貯蔵され,軸索流によって神経末端まで運ばれ,インパルスを介さず放出さる.この因子は筋組織の形態と性質の維持に役立っていると思われている19).前二者は分子レベルまで解明されつつある事実であるのに対し,後者はまだその実体がつかめられておらず,仮説の域を脱していない.神経切除はこれら3つの筋への効果が消失することを意味する.神経を介する筋への効果はこれら3つの異なる機序による原因を分離して探らねばならない.すなわち筋の形態と性質に及ぼす筋活動の影響を調べるには神経の関与を除外した系で行われなければならないことになる.
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