男性性機能の生理

Physiology of Male Sexual Function.

はじめに

　男性の性機能は勃起・性交・射精等を含めての性交機能と睾丸での造精機能やホルモン分泌機能等の生殖能力に大別することができる．

　これら男性性機能のうち睾丸の機能についてはかなり詳細に研究がおこなわれているが，いわゆる性交機能についてはその研究は十分とはいえず，いまだ不明の点も多い．

　男性性機能についての最初の報告はAristotleの研究にみられ，彼はそのなかで陰茎の充血“engorgement”および射精“ejaculation”について記載している¹⁾．その後，Kinsey²⁾やMasters and Johnson³⁾らによるヒトの性行動に対する生理学的，心理学的，社会学的な観察がおこなわれ，男性の性反応も次第に明らかにされつつある．

　しかし，われわれ泌尿器科医にとってこれら男性の性行動については従来から特殊な分野としてあつかわれており，余り積極的な研究がなされていない傾向があった．ところがわれわれ泌尿器科医は骨盤内臓器の摘出手術や骨盤外傷などの手術をする機会も多く，術後の末梢神経障害としての勃起障害や射精障害を診察することが多い．したがって，これら勃起や射精等の性機能についても無関心でいられなくなり，ようやくこの方面の研究もおこなわれるようになって，その成果が各種性機能障害の治療法に応用されるようになった．そこで今回は男性の性機能のうち特に勃起や射精について従来からの研究を紹介すると同時に，最近われわれが得た成果についても述べてみたいと思う．