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緒言
脳血管障害性片麻痺患者に対するリハビリテーション医療の目標は二次障害の予防機能回復の促進,残存機能または代償機能の開発であるが,最終的には可及的に病前の日常生活の方向へ導く事である.この片麻痺患者の日常生活動作の独立性は「立位及び移動の実用性」と密接に関係しているため,臨床の場では両脚起立能力ひいては歩行能力の再獲得が最も重要な目標となる.このため脳血管性運動障害に対する運動療法の比重は極めて大きいのであるが,現在のところ残念ながら神経生理学的にプラトーに達した麻痺肢に対しては一定以上の機能的改善は期待しがたい.
近年,各種の神経筋促通法が試みられて来てはいるが,服部の述べるごとく重症例,陳旧例,弛緩型には実用性及び持続性の点でほとんど効なく,効果的なのは比較的軽症例でしかも自然回復の時期のもののようである.それも回復速度を速め,治癒限界に達する時期を若干短縮する程度にしか過ぎないと考えざるを得ない.結局,両脚起立を可能にし,実用性を高めようと考えるならば,さらには「緊張と疲労が少なくて,より実用的な歩行」に少しでも高めようと考えるならば,それぞれの症例に応じて運動療法の限界を超える努力,すなわちリハビリテーション外科的療法に向わざるを得ない.
さて,実用的歩行は自らの意志で立ち上り,自らの意志で目的に向かって移動する事が基礎となる.このことは起立・歩行を「運動パターンの退行度及び平衡反応障害度の組合せとしての運動障害」のみならず,「精神的・心理的・意志的障害要素」等の総和として見做さねばなるまい.従って,「課題遂行に結びつく歩行能力」を再獲得するには総合的な対応が必要であり,またその環境側の整備工夫が必要である事は当然である.しかし,種々の理由で起立歩行の運動療法プログラムに乗せる事ができないような精神的阻害因子保有例を除けば和式家屋内での安全な歩行と家庭内自立を直接防げているのは,選択的に障害された平衡反応障害または起立歩行時発生増強する動的足部変形である事は大方の予想以上である.
起立,歩行にとって不都合なこの遺残した麻痺下肢の障害に対する手術療法は姿勢反射及び共同運動の枠内とはいえ,歩行を可能にし,円滑にし,あるいは安定せしめ得る点ではその有用性に異論のないところである.しかし,脳血管障害患者の運動障害に対する理解,評価,分析方法がいまだ十分に確立されてない事もあって,適応・術式その他細部では今なお,未解決の問題が山積しているし,またこの手術療法の具体的目的も局所形態的観点から議論される傾向がある.
さて,われわれは昭和53年2月末まで試行錯誤の連続ではあったが,脳血管障害性麻痺下肢に対し両脚起立の実用性を保障し,歩行能力または安全性を高める意図で114例の手術を経験してきた.今回アンケート調査と直接検診で88例の予後調査をする機会を得たので,その結果を検討する中で,「この手術療法を施行する際は具体的に何を目的として行うべきか」改めて考えてみたい.手術成績に影響する因子および適応と術式選択についての検討は別論文にて論述する.
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