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心身障害者の職業リハビリテーション(以下,職業リハと略す)の実施のための,一般に定型化された伝統的な図式として要約されるのは,①その人の残存能力に見合った,可能職業と目される領域への能力や興味を吟味すること,②その可能職業領域に関する正確な情報を提供すること,③可能職業への直接の斡旋,あるいは再就職を前提とした職業技能の再訓練をすること,等のプログラムを用意することであった.このような図式によって首尾よく対処され得る障害者とは,当然,すでに職業への動機づけやレディネスが,程々に見込まれ得る人々であり,したがって,可能職業や,それに関連した自己自身についての情報が提供されたり,技能の再訓練を経ることにより,さしたる支障もなく職業の実際場面に配置され,そして,程々の適応が期待でき得る人々であった.現状においても,なおこのモデルにより十分対処でき得る人々も少なくない.しかし,同時にまた強調されねばならない点は,この分野における重度障害者の著しい顕在にともない,職業適応を阻害する,多面的な職業ハンディキャップへの諸要因の出現と,その対策の必要な点であろう.ある種の障害状況,すなわち,先天的あるいは幼少期の障害発現は,その人の成育歴において職業的刺激との接触を過疎的にし,また,種々の精神的ハンディキャップの状況は,職業的刺激の受容を制限しやすいので,これらの人々の,適切な職業行動の発達形成を阻害する可能性が極めて高い.諸種の障害と職業行動の発達形成の問題がこの分野における重要な課題として登場したのは,そんなに古いことではない.この事実は,この分野における重度職業ハンディキャップ者の出現と,それらの人々の職業適応への潜在性を,可能な限り顕在化せしめようという,行動科学的接近の努力によるものであろう.すなわち,職業への動機づけ,適切な職業観や興味の開発,心身両面の作業耐性の形成,適切な作業態度や習慣の習得等は,職業技能の習得と同等以上に,その人の職業適応を左右する要因であり,心身障害者の職業リハにおける職業適応のための指導と訓練プログラムは,このような考え方に基づいた,適切な職業行動(Work Behavior)の形成を目ざした,集中的なこころみであるといえよう.
職業適応のための指導と訓練プログラムは,種々の方法の選択的並用によって実施するのが効果的であるが,その学習の形式からみれば,①言語的学習の形式,②体験的学習の形式に大別される.前者は,主として,個人的および集団的におこなわれるカウンセリングがその中心であるが,そのカウンセングの性格は,この分野で伝統的に用いられて来た.職業情報や自己自身の職業的可能性に関する情報等の伝達的カウンセリングとは異なり,より「治療的」かつ「教育的」であるといえよう.筆者の属するセンターでの,ささやかなこころみの一端を例にとれば,職業発達指導プログラムの一環として,学習理論にもとづいた「行動カウンセリング」の応用を探索的におこなっているが,なかでも,良い職業適応者をモデルにした観察学習(またはモデリング法)の形式は,この種のプログラムの中で有効に利用し得る技法の1つであるという展望を得つつある.
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