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はじめに
中枢神経の病変で起こる痙縮spasticityは最も治療困難な微候の1つである.それは,痙縮が強い場合には薬物療法や理学療法の効果はほとんど期待できず,神経ブロックや切腱術などの破壊的療法の必要なことが稀でないし,また痙縮が軽い揚合には,痙縮の軽減によりかえって歩行障害が増悪することが少なくないことからもいえよう.痙縮の治療に際しては,「痙縮の軽減」のみが目的であってはならず,筋力,関節可動域,歩行・移動その他日常生活動作,さらに職業,家庭の状況まで広く検討した上で計画実行されなければならない.ともあれ今日まで,真に痙縮に有効な薬物がなかったことが,痙縮の治療が困難であった最大の理由といえよう.
このたび,米国Norwich Pharmacal Companyで開発されたdantrolene sodiunは,骨格筋に直接作用して痙縮を軽減させる新しい型の薬物で,その効果も大きく,米国では画期的な抗痙縮剤として高く評価されている.構造式は(図省略)である.
従来の抗痙縮剤の多くが中枢神経のシナプスの抑制剤であるのと異なり,本剤は筋の収縮に必要な筋小胞体からのCa++放出を抑制することにより筋を弛緩させるため,眠気などの中枢神経作用が少ないという1).
臨床報告は1971年から行われており同1~13),二重盲検法でも顕著な有効性が確認されている5~8,10).脳卒中,脊髄損傷,脳性麻痺,多発性硬化症などの中枢神経疾患による癖性麻痺に有効であるが1),パーキンンン病,ミオトニーなどには無効である13).
副作用としては脱力感,悪心,めまい,食思不振,下痢,その他血清酵素の上昇など多数報告されているが,重篤なものは少なく,安全な薬物であるといわれ1),800mg/日の大量でも6),1年以上の長期連用でも7)副作用は少ないとされている.また小児でも安全であるという10,11).
このたび,山之内製薬より提供された本剤を18例に試用し,痙縮を軽減する作用としては従米の抗痙縮剤にみられない著明な効果がえられた,反面,副作用としての脱力(これは効果の一部とも解されよう)がきわめて高頻度にみられ,本剤の使用法は必ずしも容易でない,という印象をうけた.ここにわれわれの経験を報告する.
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