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はじめに
周知のごとく,脳血管障害(CVD)は,わが国の死亡統計の第1位を占めており,昭和49年版の厚生白書1)によると,昭和48年の脳卒中死亡者は年間18万余に及び,全死亡者の25,8%を占めている.死亡をまぬがれたCVD患者がこれとほぼ同数いると仮定し,近年増加しつつある交通事故による頭部外傷後遣症をこれに加えると,脳損傷患者の数は厖大なものである.これらの患者には,片麻痺で代表される運動障害などの後遣症状の他に,Benton2)がbehavior disorder(行動異常)という言葉で包括している,失語(aphasia),失認(agnosia),失行(apraxia),全般的知能障害(general intellectual impairment)などの高次脳機能障害がしばしば合併する.脳損傷患者のリハビリテーションにおいて,これらの高次脳機能障害は重大な阻害因子であり,リハビリテーション医療にたずさわる医師,PT,OT,看護婦などの間で,今や切実な問題として注目されてきている.今年の第12回日本リハビリテーション医学会総会において,「失行症,失認症とそのリハビリテーション」というセミナーが持たれたゆえんである.
わが国の失認症,失行症に関する研究は,従来主として精神医学ないし脳病理学の領域におけるものでありリハビリテーション医学の分野での研究は,失語症に比べて,かなり立ち遅れている感を否めないであろう.リハビリテーション医学会に失認症に関する最初の発表をしたのは福井ら3)であり(第5回総会),112名のCVD患者のうち,半側空間失認が左麻痺の42%にも及び,右麻痺における失語症の30%を上回ると述べている.著者ら4)が第11回総会に報告した調査では,後述のごとく,半側空間失認は左片麻痺の18%であった.上田は今年の前記セミナーにおいて,東大リハビリテーション部における,脳卒中後遺症367名,脳外科後遺症115名,計482名の失行・失認の調査成績を発表した.それによると,表1のごとく,半側空間失認は左片麻痺に27名(左片麻痺の13.2%),右片麻痺に2名,計32名で最も多く,失行・失認の中で一番頻度の高い病態であると言うことができるであろう.
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