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Ⅰ.はじめに
多発性硬化症multiple sclerosis(MS)はいまだ原因が不明であり,それに対する根本的治療法もない.治療の多くは臨床症状やそれの程度に応じた対症療法であり,軽度の感覚障害の増悪には臥床安静やビタミン類の投与,急速な運動麻痺の進行には副腎皮質ホルモンやACTHなどが用いられている.
近年,多くの神経疾患のリハビリテーション,とくにneurological rehabilitation5,9)は重視され,諸外国においてはMSもその対象となっている1,8,26).患者に,制限された状態ではあるが,最大限の身体的・知的活動を獲得させ,これを維持させていくことはもっとも必要なことである.このようなリハビリテーションにおいて,患者の活動性を高めるための基本的な手法はphysical therapyとoccupational therapyである.一部の医師の間にphysical therapyによる負荷がMS患者の状態を悪化させるという意見もあるが,現在の主流はむしろ積極的にphysical therapyを行う方向になっている4,5,9,18,24,26).Poserら24)はMSの治療では,薬物療法と同時に運動療法を行うことが,あらゆる状態の患者にとって重要であると述べている.MSにおいてもphysical therapyはリハビリテーションのうちで第一に行われるべきものであるといえよう.
MSの臨床症状には多種多様のものがあり,患者の経過の変化,治療効果の判定には多くの困難がある.Schumacherら27)は神経学的検索によって末梢にみられる機能の変化として,これらはとらえられると述べているが,これはneurological impairment注)を測定していることになる.一方MS患者のdisabilityを測定し,それを通じて変化を知る試みもある.disability判定にHyllested10)は1-6段階の区分を用い,Kurtzke13,14,15)の Disability Status Scale(DSS)は0-10段階になっている.これらは患者の歩行能力を中心として主観的に判定するものである.これに対してTourtellotte ら16,29)のQuantitative Examination of Neurological Function(QENF)は,力・速度・単位時間内の遂行数などを測定する客観的判定になっている.またSimulated Activities of Daily Living Examination(SADLE)では立位・歩行・更衣など一部のADLに時間測定を用いている25).MSのdisability評価には,このように主観的評価と客観的測定の2つの方法が用いられているが,これらはphysical therapyの治療手技と直接に結びつくものではない.
Physical therapyにおいては neurological impairmentの把握,それにもとづく動作やADLの障害評価が,どのような手技で患者を治療するかを決定するのに重要である.患者の現状の評価,目標の設定,治療手技の選択・実施は本来一体化すべきものである.このような観点からMS患者のneurological impairment,functional disabilityについて検査を行った.
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