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はじめに
多発性硬化症(MS)は,中枢神経を場として再発と緩解を反復する自己免疫疾患であるが,髄鞘が傷害されるだけでなく,軸索が一次的にも傷害され,発症当初から神経細胞の変性が起きることが指摘されていて,今や神経変性の進行をいかに予防できるかが治療に関する研究の焦点となっている1-3).従来の治療法はいずれも炎症を抑制する治療法で,今後数年間,わが国の治験に登場する再発予防を主たる目的とする薬剤もこの系統の薬剤である.
国内では再発予防に使用できる薬剤として認可されているのはインターフェロンβ1bのみで,ようやく今年度中にインターフェロンβ1aが認可されるが,欧米では3種類のインターフェロンの他,コパキソンやミトキサントロンが利用でき,ナタリツマブというモノクローナル抗体も利用できるようになったほか,さまざまなリンパ球に対するモノクローナル抗体の開発や複数の治療法を併用する方法が開発されるなど,この数年,MSの治療環境の進歩は著しい.
このような薬剤の効果判定や脳MRI所見やサイトカインなどを用いた疾患活動性や進行度との相関に関する研究や経過を追跡するうえで,障害度の他覚的評価法の一つとして,KurtzkeのExpanded Disability Status Scale(EDSS)が用いられてきた.また,日常診療でもEDSSは,障害度の変化や患者同士の比較に利用されてきた.
1980年に制定されたWHO国際障害分類(ICIDH)では,disabilityやhandicapをimpairmentから分離した.impairmentは疾患自体の障害に基づく神経学的所見として認められ,disabilityとはこれらのimpairmentにより機能障害を起こし,ADL(activity of daily living)の活動に問題を生じることを意味し,handicapとは生活環境でのdisabilityによる職業や社会活動などでの制限を意味し,患者の自己申告に基づくものである.
治療の効果判定に際しても,自己申告による生活の質の評価が重要とされ,QOL(quality of life)の位置づけが高まっているが,これはdisabilityの重みが増し,handicap評価を日常診療の場でより重視しようとする近年の変化によるものであろう.ただ,自己申告に基づくこのような評価法は,それぞれの患者の生活環境の違いや病前性格の影響を強く受けるという欠陥がある.身体機能とその障害度の程度が臨床医にとっては重要だが,患者にとっては身体障害による精神と心の健康度が重要である.EDSSは,同一患者の時系列変化の評価には利用可能であるが,本来は行政レベルでも重要な患者同士間の比較には,その利用の困難さが指摘されている.
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