巻頭言
建築学からみた環境づくり
陳 慧玉
1
1東京都老人総合研究所障害研究室
pp.617-618
発行日 1975年8月10日
Published Date 1975/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552103380
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身障者の生活圏は施設から,住宅・町へと拡大する方向に動いているにもかかわらず,生活の場である物的環境は改善されたとはいいがたい.たとえば,身体障害者福祉法により定められた諸施設は,それぞれ建てかえの時期に来ているが,サービス内容・施設体系の再検討もなく,次ぎ次ぎにリハビリテーション・センター,あるいは福祉センターと名を改め新築されている.一方,車いす使用者用に特殊設計をしている心身障害者向け公営住宅も,不特定多数の入居者のニードが十分把握されないまま,固定的に諸設備を構築しているため,多種多様な障害者の使用条件をみたせず,入居後,さらに多くの不便を蒙っている.同じく,市民団体が主体となって展開されて来た街づくり運動により実現した福祉モデル都市も,具体的な整備方針・基準もなく,個々にバラバラな手法で横断歩道の段差が削られ,点字ブロックが敷かれているため,使用上かえって混乱を招いている.
このような現状をつくり出している要因の1つとして,建築分野での認識の足りなさが上げられよう.大学の建築課程の中では今だにハンディキャップを負う人々と計画・設計上の問題,あり方について教えることもなく,また実際に設計にたずさわっている者も,実務にすぐ応用できるこの方面の参考資料が乏しいことも原因してか,身障者・老人も含めて考えることもなく,従来の健常者本位の多くの建築的障害をつくり出している.
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