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リハビリテーションチームを組んで寝たきり老人を訪問した当時のこと,われわれもベテランの理学療法士もどうしてよいのかわからず,しばし言葉なく枕頭に向かい合うという光景が一再ならずあった.訪れるさきざきで病状を適確に把握し治療方針をたて,リハビリテーション処方を出してその解説・手引きまでなしおおせた例は多くなかった.限られた状況でしかも患者にも家族にも何がしかの実益をもたらすプログラムをすばやく組み立てる作業は,大変に苦労ではあったが良い勉強になったと思う.一人の保健婦が家庭状況・病状ならびに治療プログラムを克明に記載し,定期的に訪問し結果を教えてくれた.赫々たる戦果はなかったが,この記録はいろいろの教訓を与え今後の方針を示唆するに十分な資料となった.当時にくらべて,老人医療の無料化や年金支給あるいは施設増設といった福祉医療施策はたしかに進んでいる.しかし依然として,こうした老人にもその家族にも救いのないままだし,前途も明るくない.
リハビリテーションの効用を寝たきり老人で考えるというのは,元米,的はずれの議論だということになるかもしれないが,現在の輝けるリハビリテーションは余りにも良き顧客のみを対象にし過ぎていないだろうか.よくなる見込みのある患者には実にゆきとどいた処方と治療手段がある一方,治療に反応しない患者は遠慮なく切り捨てられる傾向にある.この切り捨て水準がかなり高いために水準下患者の数はばう大なものとなる.しかしこのリハ水準以下の老人・子供とそれをめぐる家族がいかに処遇されているかという点にこそ福祉国家の評価がかかっている.リハビリテーション医療あるいはその施設についても,水準以上の患者がどのくらい進歩したかで評価されるのが一般である.一度水準下の患者を尺度に評価をうけてみてはどうだろう.おそらく施設体系・職員構成,その組織などまったく役に立っていないことがよく判るのではあるまいか.
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