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5年前の春,私はシカゴのRay教授のクリニックを訪れた.ちようどその時Mr. Charnleyが英国から招かれてレジデントの教育をしておられた.短躯で活気に溢れた様子が如何にも印象的であつた.これが彼との最初の出合いであつた.彼は私が股関節外科に興味を持つていることを知り,英国の彼の病院を是非とも訪問するようすすめてくださつた.8月の終わり,米国の旅程を終えてロンドンに渡り,ホテルに到着すると,すでに彼からの手紙が届いており,来訪を待つている,宿舎の準備もあるという知らせを受けた.彼の病院をしらべるとWiganという小さな町の近くの田舎にあることがわかつた.翌日同伴の上羽君とロンドンを出発し,美しい緑の田園の風光を楽しみながら,かなり長い列車の旅をつづけ,Wiganの小さい町に降り立つた.ここからさらにバスに乗り,全くの田園の中を走り,人家のない三叉路に降ろされた.2人は教えられた田舎道を歩いた.途中に牧場もあり,心細い思いをしながら30〜40分程も歩いて行くうちに,ようやく病院らしい建物を発見することができた.平屋の長い病棟がいくつか並んでおり,広い畑と牧場に囲まれている.ここに彼の根拠Centre for Hip Surgeryがあつた.私はここですばらしい手術をみることができた.感染に対するきわめて周到な配慮,大胆かつ正確な技術によつて行なわれる全関節置換術に圧倒された.私はガラス張りの手術室に自分の顔をすりつけるようにして手術を見た.私の半年におよぶ外国旅行においてこれ程の強い印象を受けたことはなかつた.米国で児玉教授から彼を日本に招く計画を知らされ,その交渉を依頼されていたので,私はそのことを彼に告げた.彼はわれわれの希望を快諾した(結局,実現しなかつた).
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