Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
『新約聖書』の『コリント人への手紙』―パウロの回心と障害受容
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.1502
発行日 2007年12月10日
Published Date 2007/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101145
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初期キリスト教伝道の立役者パウロは,もともとは厳格な律法者としてキリスト教徒を迫害する立場にあったが,ダマスカスへ向かう旅の途中で突然イエスの声を聞くという神秘体験を経て決定的な回心をし,以後,伝道者としての人生を生きることになる.パウロの回心についてはこれまでもさまざまな解釈がなされてきたが,精神医学的な診断はともかくとして,そもそもパウロがキリスト教徒として生きるようになった背景には,彼自身のなかに本来キリスト教との親和性があったと考えるのが自然であろう.そしてそれは,パウロ自身の病という要素に求められるのではないかと思われる.
『新約聖書』(新改訳聖書刊行会訳)の『コリント人への手紙・第二』には,パウロが自分自身を語った言葉として,「私は,高ぶることのないようにと,肉体に一つのとげを与えられました」という言葉がある.これはパウロに何らかの身体的な病気なり障害があったこと,そしてパウロが自らの病や障害に高慢を戒めるという意味を見いだしていたことを示唆する言葉である.また,同じ『コリント人の手紙・第二』には,「パウロの手紙は重みがあって力強いが,実際に会った場合の彼は弱々しく,その話ぶりは,なっていない」という言葉もあって,パウロが身体的にも弁舌の才にもそれほど恵まれていなかった様子がうかがえる.パウロは,いわばさまざまな弱さを抱えた存在だったのである.
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