巻頭言
障害予防医学試論
豊永 敏宏
1
1九州労災病院リハビリテーション科
pp.307
発行日 2003年4月10日
Published Date 2003/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100825
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私が整形外科の臨床・研究の現場から,リハビリテーション医療への途を歩んできて20年が過ぎた.当初から,リハビリテーション医学界は,自らのアイデンティティを確立するには科学性を積み上げなければならないという風潮があった.私も,医学と称するからには科学性に裏付けされたアイデンティティの確立こそが大切だと思い,それを求めて努力してきた.例えば,現在でも研究が行われているように,統計学の手法を用いた予後判定などである.しかし,多面的様相を持つ障害者を対象としたリハビリテーション医療においては,大規模な無作為化比較試験や質の高い論文を検証するメタアナリシスなどの統計的手法にかなったEBMの確立はもともと無理な話なのではなかろうか.
その後,明確なアイデンティティを確立できないまま,在宅訪問指導などを通じて,関節変形や痛みの障害予防や進行・悪化を遅らせる手段として予防的に運動療法が用いられないのだろうか,また,このような障害(ほとんどは脳血管障害者)になる前に何か打つ手はなかったのだろうか,と考えるようになった.このことが,私の持論である障害予防医学(仮にPreventive Rehabilitation Medicineとする)への取り組みの契機となった.以来,腰痛症の発生や再発予防あるいは糖尿病足の切断予防に適切な運動療法の手段は何か,また,脊損の褥瘡発生の予防対策は何なのか,あるいはリウマチに対し装具処方の適切な時期や種類は如何,と思いを致すようになった.障害が起こる型や時期を,危険因子の検討などによってさらに早くから予測し,積極的に早期治療を施すことができれば,少しは障害の先送りができるのではないか.
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