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はじめに
痴呆性高齢者への心理・社会的アプローチの歴史を振り返ると,図1のような3種類の領域に分けることができる.本稿で焦点となるリアリティ・オリエンテーション(Reality Orientation;RO)は,この分類のなかで元来,痴呆性高齢者へのケアの一方法として活用されてきた領域のうちで,最も早くから展開しているものである.一方,回想法は,1960年代のButler8)の提示により始まった.ROとは異なり,元来から痴呆性高齢者を対象としているものではない.このようにROと回想法は,その方法が紹介された背景は異なっている.本稿では,ROと回想法の基本と効果について検討を加える.
リアリティ・オリエンテーション
1.ROとは何か
ROは,1950年代の始めにアメリカのFolsomら1)によって提唱された.加藤ら2)はROの目的について,痴呆性高齢者の現実見当識を繰り返しの刺激により強化し,誤った外界認識に基づいて生じる痴呆の行動障害や情動障害を改善することを目指すものであると再定義している.
ROには,日常的ケアにおけるスタッフが,高齢利用者とのあらゆるコミュニケーションを通じて意識的に働きかける24時間ROと,小グループの構成で特定の場と時に行われるクラスルームROの2種類がある.前者は非公式RO,また後者は公式RO,ないしROセッションとも呼ばれ,相互に補完しあうものである.ROでは,さまざまな補助道具が積極的に用いられる.例えば,ROボード,大きなカレンダー,時計などである.ROボードでは,つい最近起こった生活上の基本的な情報が,反復して示される.ROを行う際の基本的留意点としては,1 痴呆性高齢者の尊厳に基礎を置く明確な価値観を持つこと,2 個々人の多様性を熟慮した実際的な面からの個別的アプローチが望まれること,3 痴呆症のレベルを適切にアセスメントし,さらに個々人の生活史と現状に適合した目標の選定,4 高齢者自身への効果に加えて,スタッフへの効果を含めること,などが挙げられる.ROと回想法を記憶や言語の能力のレベルで分類したものが,表1である.
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