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はじめに―なぜ,今,権利擁護が問題なのか
2005年の介護保険制度の改革では,法の第1条・目的に「尊厳の保持」が書き加えられた.しかし,高齢者の福祉・介護の現場をみてみれば,ここ数年,高齢者の尊厳保持どころか,介護心中や介護の重荷に耐え切れなくなっての介護殺人が後を絶たない.さらに,介護保険の導入後,家庭訪問したヘルパーによって,家族から虐待を受けている高齢者が発見されるなど,家庭内における高齢者虐待の問題が顕在化している.このようななか,議員立法によって高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(以下,高齢者虐待防止法)が成立し,2006年4月から施行されている.
その後,各地で地域包括支援センター等による相談窓口が設置されるにしたがい,類似の通報はさらに増えている.2006年8月には,高齢者介護施設における虐待も大きく報道されるなど,虐待や拘束が施設にもあることがあらためて広く社会に知られることにもなった.さらに,ある県で認知症姉妹がリフォーム詐欺で自宅を競売にかけられそうになった事件はマスコミ等によって大きく報道され,高齢者の消費者被害,権利侵害は数多くあることも明らかにされた.とくに認知症をもつ高齢者は自己の権利を認識し,自分で自分を護ることが難しく,自ら他に向けてSOSを発信することのできない人も多い.
さらに今後,高齢者の一人暮らし世帯は,1,700万の高齢者世帯のうちの1/3,約570万世帯になろうとしている.つまり,家族支援があてにできない高齢者単独世帯が急増するという現実に直面している.さらに地域の実情をみてみると,認知症高齢者ばかりでなく,経済的困難や同居家族が精神・身体障害をもつなど,さまざまな生活上の問題で孤立し,虐待や権利侵害を受けていたり,主体的なサービス利用ができない人など,権利擁護の支援が必要な人々が潜在的に多く存在しているのである.
高齢者や障害者が,社会サービスを自己決定し,利用し,地域でその人らしい生活を維持していくために,今後地域でどう支援していくのかという問題,つまりかれらの権利擁護の問題は,今後さらに大きくなるであろう.
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