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はじめに
日本の社会保障制度は,明治以降,欧州先進諸国の取り組みを参考にしつつ形成されてきた.とりわけ近代ドイツで発達した社会保険システムを基本にしており,医療保険,年金保険,雇用保険などいくつもの制度が国民生活の安全と安心を支えている.
こうしたなかで,戦後の日本は,高度経済成長を経た後,欧州先進諸国と同様に少子高齢化が急速に進み,先進諸国と共通の社会的課題に直面することとなった.その一つが高齢者介護問題であるといっても過言ではないであろう.1980年代以降,欧州先進諸国では少子高齢化が進む一方で,低経済成長に陥るなか,それまでの福祉国家のあり方に修正を加えざるを得なくなった.高齢者介護分野においても,医療・福祉サービスの一元化,サービスの選択制の導入,地域サービスの計画化などさまざまな改革が行われた.日本でも同様に,平成元(1989)年のゴールドプランの策定以降,福祉八法改正など高齢者介護問題への取り組みが急速に進んだ.その過程において,急増する高齢者介護問題に対し,家族介護の限界,保健,医療,福祉のサービスが異なる制度で提供されている弊害,国,都道府県と市町村との役割分担の再整理の必要性などから,1990年代半ばから本格的な制度議論が行われた.その結果,高齢者介護に係る保健,医療,福祉のサービスを,市町村を保険者として一元的・総合的に提供する新たな社会連帯のシステムが構築されることなった.これが介護保険制度であり,介護保険法は平成9(1997)年に成立し,平成12(2000)年4月から全面施行されることとなったのである.
介護保険法は,わが国における最新の社会保険制度といっても良い.高齢者介護の社会化を図り,要介護高齢者の自立支援と在宅での生活の継続性を旨とし,多様なサービスの自己選択を基本に総合的なサービス調整を行うケアマネジメントシステムの導入などの特徴をもつ.ただし,介護保険制度は,従来の保健・医療サービスと福祉サービスの提供システムを再編成した新たなシステムであり,ケアマネジメントなどの新規システムもあることなどから,高齢化が進展し,高齢者を取り巻く環境が変化し続けている状況では将来の課題をすべてを予見できるものではなかった.したがって,施行後の実績を踏まえながら,5年後の見直しがあらかじめプログラムされた法律であったといっても良いであろう.
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