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はじめに
近年,わが国においても根拠(エビデンス)に基づいた医療(evidence-based medicine;EBM)をめぐる話題がもてはやされている.医療界全体におけるこの大きな流れは,理学療法の分野においても例外ではない.とくにこの分野の場合,研究結果として生存・死亡や医療の専門家のみが理解できるような検査結果ではなく,症状,機能障害,満足・不満足,費用など,患者にとって重要な健康・疾病の指標を用いることが多い.近年このような指標を対象にした研究(アウトカム研究)が各方面で精力的に行われる傾向にあり,理学療法に対するエビデンスの蓄積も急速に進んでいる.
臨床で遭遇するさまざまな問題について,現在までにどのようなエビデンスが存在するのかを把握し目の前の患者に適用することは,当然,患者の直接的な利益となる.例えば日々の臨床において,“脳卒中患者に対して,いつからリハビリテーションを開始すべきだろうか?”という疑問に突き当たったとする.このような個別的な疑問は実際にどのように解決されているのだろうか? あるときは先輩に質問し,その意見に従うかもしれない.確かにその方法は,目の前の問題を手っ取り早く解決してくれるし,経験のある先輩の意見であれば,安心感も得られるであろう.その施設や地域において固有の諸事情を考慮したアドバイスであることも多い.しかしながら,その意見は往々にして個人の経験や好みに偏ったものであることが多く,学術研究によって客観的に証明されたエビデンスに基づいているとは限らない.エビデンスに触れることなく,権威者や専門家の個人的経験や意見を述べるにすぎない従来型の教科書や,忙しい臨床の場で汎用される“マニュアル本”の類もしかりである.それらはとりあえずの行動指針を示してはくれるが,必ずしも現在の最新・最適なエビデンスを教えてくれるわけではない.臨床に携わっている医療者が目前の問題に対処する場合,とりあえずそれらの情報をたよりに当座をしのぐのは実際的ではあるが,後からでもよいので,その問題に対する医学研究の現状,つまり科学的な根拠はあるのかないのかをチェックする姿勢を維持したいものである.
エビデンスの現状把握は,臨床実務面だけでなく,それらの疑問を臨床研究のアイデアとして反映させる際にも重要な役割を果たす.研究のアイデアを具体的なものにするとき,その問題についてこれまでどのような研究が行われてきて,その結果はどうであったのか,何がわかっていて,何がわかっていないのか,これまで行われてきた研究手法の問題点は何か等の知識が,整理・把握されていなければならない.これまでに同様の研究が他の施設で多数行われており,その問題についてはすでにコンセンサスのある結論に至っているとすると,せっかく苦労して研究を行っても,その結果は意味をもたないことになってしまう.また逆に,一見解決済みの問題に見えても,これまでの研究を吟味し,エビデンスが手薄な部分や,それらの研究の問題点などを把握していれば,小規模の研究でも日々の診療に大きな影響を与えるエビデンスを提供できる場合もある.エビデンスを検索し,適切に吟味できる能力は,研究のアイデアを抽出するときだけではなく,あらゆる過程で必要とされる.例えば,ある治療の有効性について患者の満足度を測定する質問紙で評価する場合などは,その質問紙の妥当性を検討した論文を入手し,実際に自分の研究に使えるものかどうか吟味する必要がある.
このように,注目しているトピックスについて医学研究の現状を知ることは,臨床と研究の両面において欠かすことができないことである.ここでは,臨床上のさまざまな疑問を解決するための科学的根拠を知るために,適切な文献検索方法,および入手した文献の質を吟味する方法を簡単に述べたいと思う.
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