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はじめに
Ashworth Scale(AS)は,Ashworth1)が多発性硬化症患者を対象に開発した5段階(0~4)の主観的痙縮評価尺度である.その後,Bohannonら2)が痙縮患者の肘関節屈筋において,ASの“1”が幅広く離散的であることから“1+”を加えてModified Ashworth Scale(MAS)(表1)として改変した.MASは簡便な評価指標であるため,国際的に広く使用されているが,他動運動の範囲や速度は標準化されていない.Bohannonら2)は,肘屈筋を肘関節最大屈曲位から最大伸展位まで約1秒かけて他動的に伸張している.MASを用いた報告は,Bohannonらの方法に従い他動運動を約1秒かけて行っているものが多い.しかし,他動運動の範囲(関節可動域)は各関節によって異なるため,全ての筋を約1秒で伸張すると角速度が異なり,対象とする筋によって単位時間当たりの伸張速度が大幅に異なってしまう.MASの日本語版評価マニュアルを作成した辻ら3)は,他動運動の目安を1秒としながらも,slow speedが望ましいと述べている.
痙縮は,上位運動ニューロン障害で生じる相動性筋伸張反射の病的亢進状態4-6)である.つまり,痙縮評価における筋の伸張速度は重要である.Dietzら7,8)は,筋緊張亢進の要因を伸張反射に基づく反射性要素と,関節を構成する組織の粘弾性に基づく非反射性要素に分けている.鴨下9)は,痙縮は中枢性と末梢性の要因が関与すると述べているが,臨床でそれらを厳密に分けて評価することは困難な場合が多い.しかし,痙縮治療では反射性要素と非反射性要素に対する視点,およびアプローチはそれぞれ異なるため,可能な限り両者を詳細に評価することが望ましい.MASは約1秒(あるいはslow speed)という一定の速度で評価するため,反射性要素と非反射性要素を区別した評価は困難と考えられる.痙縮の評価指標として開発され多用されているMASが,どのような概念を評価しているのかを知ることは重要である.一方,MASと同様な主観的評価項目を含むModified Tardieu Scale(MTS)(表2)10-12)は,筋の伸張速度が複数規定されており,反射性要素と非反射性要素を考慮した評価が可能である.
これまで,MASとH波やH/M最大比との関連性13-15)や筋硬度との関連性16),Fugl-Meyer ScaleおよびPendulum Testとの関連性17)は報告されているが,MTSとの関連性を検討した報告は見当たらない.本研究の目的は,MASとMTSの関連性を検討すること,およびその結果から,MASが測定している概念を検討することである.
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