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はじめに
2003年7月に次世代育成支援対策推進法が成立し,それを受けて多くの市町村でそれぞれの地域の実態に合わせた次世代育成に関わる計画が策定されつつある.幼児人口が多く,また働く母親の比率が高い地域では,従来は子育て支援といえば保育所の待機解消に向けた保育所整備計画に重点がおかれやすかった.しかし,地域で実際に子育て支援の中心となっている保健所(福祉保健センター)の活動状況をみれば,現在の社会のなかで育児に悩み不安を抱えている母親の多くは,報酬を伴うような職業には就かずに家庭で家事と育児に専念している人たちである.このような育児不安をもつ親を支える保健所等の育児教室や民間の育児サークルの類は各地域に実に多く存在するが,「参加を勧められたが,そういうグループに参加するのは苦手」という人も多いのが実態である.
ここでとくに問題になるのは,発達に何らかの遅れや偏りがある子どもを育てている両親(とくに母親)の場合である.脳性麻痺や先天性疾患に伴う発達障害の場合は,早い時期に医療機関で診断を受け,発達予後に関する知識を得る機会もあり,医療面・福祉面でさまざまな支援を受けられるルートに比較的早くのることができる.しかし,現在療育機関を利用している児の多くは,とくに医療機関に通院しなければならないような疾病をもつわけではなく,その児の発達上の問題に母親が気づくか,または保健所の健診で指摘されるまで,家庭で元気に過ごしてきた子どもたちである.このような場合は,親が障害とまでは思わなくても,「何となく他の子とは違う」,「発達が遅いようだが個人差の範囲内だろうか」などの漠然とした不安を母親ひとりが抱えていたり,「親の育て方が悪い」と周囲の人間に責められる,または逆に「心配しすぎ」と誤った励ましを受けるなど,混乱した時期を長く過ごしてきた例も多い.そしてこれらの親たちは,一般の育児サークルや幼児教室などに参加することに気後れを感じ,その一方で専門機関に相談して障害の診断が決定的になるのを恐れており,ますます社会的な支援から孤立した,孤独な状況におかれているのである.このような状況の両親への育児支援の仕組みづくりには,かなり工夫が必要になる.
本稿では,まず上記のような経過で運動発達・精神発達の障害の診断までに時間のかかるケースに対し,保健所などの場でどのような家族支援を行うかを述べる.次に,ダウン症など,早期に診断がついてそれなりの発達の見通しはもちつつも,日常の育児には多くの支援を必要とするケースに対し,療育センターなどの場でどのような家族支援を行うかについて述べる.
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