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あるとき評者は,深酒のあと家路につき硬いカバンを肘伸展位で押さえながら,電車で90分ほど爆睡してしまったことがありました.危うく最寄り駅を寝過ごす寸前で目覚め急いで電車から立ち上がり降りようとしたときカバンを取り落としてしまったのです(!!).右手関節が背屈できないためでした.いわゆる圧迫による橈骨神経麻痺だったのでしょう.翌日になっても手背のしびれと背屈困難が続き,もとの職場の手の外科外来で診てもらい,対処法は背屈保持のスプリントでした.そのとき初めて作業療法士の先生にお世話になり,プラスティックを自在に操り素早くぴったりのスプリントを作成してもらい,数週間後に回復したのです.そのときの見事な職人技は今でも忘れることができません.PT・OTはその治療において文字どおり「手」を使って,さまざまな障害や困難に対して対応しています.その「手」が使えなくなったら,まさにお手上げです.さまざまな疾病,外傷などによって起こる「手=ハンド」の治療に特化したのがハンドセラピィと言えます.
斎藤和夫先生,飯塚照史先生,下田信明先生の編集による本書『動画で学ぼう PT・OTのためのハンドセラピィ[Web付録付]』はそのようなハンドセラピィについてわかりやすくしかし詳細に解説された,一言でいうと「美しい」書籍です.「機能解剖」に始まり,「評価」,「治療」,「症例」の各章で構成され,加えて「ハンド」にまつわるショートストーリーが「コラム」欄で語られます.一つだけ内容を紹介するとすれば,「ROM測定」,「筋力測定」,「感覚検査」など基本的な評価項目の解説の前に「ハンドセラピィ評価」が置かれていることが類書にないユニークさを際立たせています(「ハンドセラピィ評価」って何? と興味をもたれた方はぜひ本書をご覧になってみてください).
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