特集 栄養を学ぶ—学際と実際
重症病態における侵襲制御と栄養療法
長谷川 大祐
1
,
西田 修
1
Daisuke Hasegawa
1
1藤田医科大学麻酔・侵襲制御医学講座
キーワード:
栄養療法
,
重症病態
,
びまん性筋力低下症候群
,
ICU-AW
,
集中治療後症候群
,
PICS
Keyword:
栄養療法
,
重症病態
,
びまん性筋力低下症候群
,
ICU-AW
,
集中治療後症候群
,
PICS
pp.879-883
発行日 2019年9月15日
Published Date 2019/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551201654
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重症病態が生体に及ぼす影響
1.重症病態と筋崩壊
大手術,敗血症,重症外傷,広範囲熱傷など高度侵襲が生体に加わると,高度かつ持続的に生体内の異化が亢進する.この代謝の変化は,炎症性サイトカイン,各種ホルモンの変化によって,生理的なレベルを上回って脂質,糖,タンパク分解を引き起こす1).特に重症例では,ミトコンドリアの機能異常,インスリン抵抗性や脂質代謝異常によって,アミノ酸の貯蔵庫としての機能を担っている骨格筋が生体のエネルギー供給に使用され,脂肪を除いた体重,除脂肪体重の急激な喪失を引き起こす.強いストレスがかかっている重症患者においては,肝臓での急性期タンパクの合成と免疫機能や創傷治癒関連のタンパクの合成が亢進し,それに必要なアミノ酸を利用するためにも筋肉の分解が生じる.
筋肉が生体の主な除脂肪体重であるが,実際に重症患者では,集中治療室(intensive care unit:ICU)入室後10日間に15〜25%の筋肉を失っていると言われている2).このような筋肉の分解に伴う除脂肪体重の減少は感染の増加や筋力低下,死亡率の上昇を引き起こす3).したがって,これら生体の変化に対する適切な栄養と,喪失した筋肉を補塡するためのタンパク質の供給が重要である.これまでの報告は,ICU入室期間での栄養,特にタンパク質のunderfeedingは長期予後やQOLの低下に関連がある可能性を示唆しており,積極的なタンパクの投与が筋肉量減少を防ぎ,感染症併発などさまざまな合併症による長期予後の悪化に歯止めを来す可能性を示唆している4).
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