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はじめに
脳梗塞は脳卒中のなかでも最も頻度が高く1),運動障害や感覚障害を起因とする身体障害・活動制限を招くために回復期リハビリテーション病棟で理学療法を実施する機会は少なくありません.一般的に「脳卒中回復期」という言葉を耳にすれば,身体機能や活動が大きく「回復」する時期を想起すると思います.しかし,最近では高齢でサルコペニア・フレイルの状態を呈した症例が増えているため,一律に「回復」がスムーズに得られる症例ばかりではありません.このような症例は一般的な回復が得られないだけでなく,目標設定や治療方針に難渋することも少なくありません.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は末梢気道を中心に生じる炎症性疾患であり,この炎症による気道狭小化や肺胞破壊によって気流制限が生じます.この気流制限によって労作時を中心に息切れが生じ,QOLを低下させます2).COPDの最大の発生要因は喫煙であり,当然この喫煙は脳卒中の発生要因でもあります.そのため,COPDを合併した脳卒中例は多いにもかかわらず3),実際急性期の段階で発見されていない場合も少なくありません.
COPDはその主症状である労作時の息切れのために,脳卒中後に実施するべき十分な量の運動療法が実施できなくなる場合があります.加えて,その炎症の影響は肺だけにとどまらないため(全身性炎症),二次性サルコペニア(加齢に伴うこと以外の要因で生じるサルコペニア)の進行を助長することで結果的にCOPDを有した脳卒中患者の予後を悪化させる可能性があります2).
また,脳梗塞は再発が非常に多い特徴がありますが4),COPDでは特に急性増悪期に脳卒中が発症しやすいことが報告されており5),COPDを合併した脳梗塞患者では,いかにしてCOPD急性増悪および脳梗塞の再発を招かないか,ということも重要な目標になります.
本稿では,COPDを合併した血栓性脳梗塞回復期症例において,上述のような複雑な病態をひもときながら,問題点や目標設定を行う一連の流れについて症例ベースで解説します.
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