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はじめに—高次脳機能障害のみかたの変遷
近年,失語・失行・失認・記憶障害・注意障害などの「高次脳機能障害」をみる視点は大きく変化してきた.その理由は大まかには3つある.1つ目には,画像診断の進歩がある.核磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)などの形態画像の進歩によって,脳損傷患者の病巣部位がリアルタイムでわかるようになった.そのため,多くの症候の責任病巣が明らかになった.また,脳血流SPECT(single photon emission CT)やPET(proton emission tomography),あるいはfMRI(functional MRI)などの機能画像の進歩も,脳機能の局在に関する多くの知見をもたらした.
2つ目には,脳血管障害の治療そのものが変化したことがある.例えば,血栓溶解療法などの治療介入によって,従来の血栓や塞栓による梗塞巣とは異なる病巣分布に遭遇する機会が増えた.あるいは,狭窄血管に対して,バイパス術や頸動脈内膜剝離術,ステント留置などの治療介入も,従来と異なった血行動態を脳に与える.これらの変化によって,非典型の病巣分布が増え,それらにも対応できる視点が必要になった.
3つ目には,関連領域(神経心理学,認知神経心理学,認知科学など)の進歩がある.関連領域の進歩は,脳機能の枠組み,考え方,評価方法に大きな変化をもたらした.これらの3つの変化によって,さまざまな新しい知見が蓄積され,その結果,高次脳機能障害をみる視点そのものが大きく変化してきた.本稿では,これらの変化のなかで,特に,失語における新しい考え方,具体的症候の概要を紹介する.
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