とびら
私を駆り立てるもの
佐藤 房郎
1
1東北大学病院リハビリテーション部
pp.281
発行日 2015年4月15日
Published Date 2015/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551200166
- 有料閲覧
- 文献概要
私が就職して初めて担当した患者は,成人の痙直型脳性麻痺(対麻痺)の男性でした.何を評価したか覚えていませんが,先輩理学療法士の治療をまねて,股関節外転位でストレッチングしていたときのことでした.「こうしてもらうと楽になるんだよ!」,不安が一気に薄れ,救われた気持ちになったのを覚えています.同じく1年目に脊髄損傷の男性を担当したとき,チームスタッフは皆ベテランでしたが,ソーシャルワーカーから私にだけクレームがないことを知らされました.先輩からアドバイスをもらいながら必死に患者に向き合って考えていたことがよかったのでしょうか.
一方,5〜6年経験を積み自信が出てきたころのことでした.実習生と運動発達遅滞の小児を担当し,母親に症状の説明や療育指導を行っていたつもりでした.実習生が実習を終え,複数の患者を調整しながら診療していたときでした.母親が「先に来て待っているのになぜ後に来た患者を先に診るのか,実習生はいつもそばにいてこの子のために対応してくれたのに」と訴えられました.自分の配慮のなさと実習生より劣る対応と言われ,それ以来トラウマになっていました.その母親の思いを素直に受け入ることができたのは,自分が父親になってからです.
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.