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痛みに関する解説本はここ数年よく目にするようになった.一般人にも読みやすいように仕上がっているものも多い.本書も図や平易な文章,時には先輩と後輩医師との対話調で書かれている部分があり,一般人から医療人まで幅広く読者になり得る.ただ,痛み情報を中心とした神経系の情報伝達機構については特にページ数が割かれており,神経生理学や電気生理学を苦手としている諸氏に対する配慮がうかがえ,このあたりの理解を深めたい医療人の方が満足できる一冊であろう.例えばインパルス,スパイク電位,スパイク発射,活動電位,発火,興奮といった言葉があるが,これらがすべて同じ意味であることなど,実は知りたかったが確認できていない,あるいはそうかなと思っていたが自信がなかったというような,ちょっとした知識に関して安心を与えてくれるメモ書きがうれしい.また,上行路だけではなく下行路,特に疼痛抑制系についても細かく書かれている.例えばセロトニンは末梢では発痛に関与するが,中枢では鎮痛に関与する物質である.一つの物質が反対の働きをするのはなぜかについて,丁寧に解説されている.これらを理解していくことで,臨床で理学療法の適応となる方々に処方されている鎮痛薬の作用点がどこにあり,どのような作用で鎮痛が引き起こされるかについて理解することが容易になる.著者は麻酔科医であり,神経ブロックをはじめ,いわゆる消炎鎮痛薬,脳内麻薬であるオピオイドや下行性疼痛抑制系を賦活化させる薬など,様々な鎮痛薬を商品名で取り上げている.そして,それらの作用点についての解説は,痛みの情報伝達系の理解とともにあり,発痛と鎮痛に関しての理解を深めることに役立つ工夫がなされている.
一方で,副作用のない理学療法という特効薬に関しての記載は当然ながら少なく,筋痛に対して理学療法の手技が有効であることと,こする,触るなどの機械的刺激を含めた理学療法の刺激が下行性抑制や脊髄レベルにおける抑制に関与することがわずかに触れられている程度である.この領域は,われわれ理学療法士が別の機会に明らかにしていく必要がある.
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