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最近,「健康寿命」という言葉をよく耳にするようになった.「健康寿命(healthy life expectancy)」とは,2000年に世界保健機関(WHO)が提唱し,「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されている.WHOの保健レポートでは,日本人の健康寿命は世界第1位と報告されているが,健康寿命と平均寿命との差は,「不健康な期間」を意味し,医療費や介護給付費の消費が増大することから,社会保障費が漸増するわが国においては,持続可能な社会保障制度にするためにも,健康寿命の延伸は国を挙げた命題となっている.
本号の特集は「慢性腎臓病と理学療法」がテーマである.まず,慢性腎臓病が成人人口の13%(1,330万人)もいることや透析患者数の増加と透析にかかる医療費(1.5兆円)は驚愕である.また,ステージ3の患者の4分の1が心筋梗塞や脳卒中で亡くなることは,慢性腎臓病患者に対する運動療法の重要性を強く意識させてくれる(飯野論文).透析中の運動療法は定着してきたが,運動療法の腎保護作用は,透析導入を遅らせるという可能性を秘めていることをわれわれはもっとよく理解するべきであろう(上月論文,松沢論文).保存期慢性腎臓病に対する理学療法(樋口論文),腹膜透析患者の理学療法(平木論文),透析治療中に行う理学療法(河野論文)については,それぞれ最前線の臨床家の手によって,より具体的な内容にまとめられている.タイミングよく,プログレスには腎移植について(今井論文),入門講座には腎臓病とは決して無関係でない下腿義足の適合について(田仲論文)掲載することができた.慢性腎臓病患者の理学療法をどうやるか,というHow toを理解しながら,理学療法を通じて,症状の悪化や心血管疾患などの発症予防と健康増進,介護予防などを実現し,平均寿命と健康寿命の差を短縮し,個人の生活の質の低下を防ぐことが,社会保障負担の軽減にもつながることから,どのような疾患を対象にするにしても,健康寿命の延伸という究極の目標は常に眼前に置いていたいものである.
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