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はじめに
認知症は加齢とともに増加し,高齢者数の増大とともに有症者数が急激に増大し,社会保障費を圧迫する原因となっている.実際に,わが国における認知症関連費用は約3兆5,000億円に達し,全世界においては米国に次ぐ世界第2位の費用となっている1).また,国民生活基礎調査による介護が必要となった主な原因をみると,2001年には認知症が原因で要介護となった者は10.7%(第4位)であったのが,2010年には15.3%(第2位)となり,団塊世代が今後10~20年の間に認知症の好発年齢を迎える2025年ごろには認知症高齢者の急増が見込まれ,その予防が急務の課題となっている.
認知症の主な原因疾患であるアルツハイマー病および脳血管疾患に対する根治療法や予防薬の開発が確立されていない現在において,認知症の予防もしくは発症遅延のための非薬物療法の可能性を検討することも重要である.近年,この非薬物療法のうち,認知機能改善,またはその低下予防に対して身体活動量増大の促進や有酸素運動による習慣的な運動介入の有効性に関するエビデンスが構築されつつある.運動による介入プログラムは比較的低コストで実施でき,短期間で効果を得ることが期待できることから,認知症予防事業の中核を果たす可能性を持っている.より効果的な運動プログラムの開発と効果検証,さらに地域医療の現場における実践のために,医療分野における「運動」の専門家である理学療法士の果たすべき役割は大きいと考える.
本稿では,理学療法による治療手段の主軸と言える「運動」が認知機能に及ぼす影響と,そのメカニズムについて概観するとともに,介護予防の新たな方向性として,認知症の予防を目的とした運動介入の効果についてわれわれの研究グループでの取り組みを含めて概説する.
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