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6年制薬剤師教育制度への移行に伴う実習教育の変化
日本の薬学教育は,明治以来100年以上にわたり4年制の学部教育と5年間の博士課程(前期2年と後期3年間)であった.卒業生の進路は広く,薬剤師から製薬企業および大学における薬学研究者,製薬企業における学術情報提供者をカバーしていた.しかし,医療における薬剤師の職能に求められる内容が高度化し,4年制教育のなかでは収まりきらなくなったとの認識から,厚生労働省と文部科学省は法令を改正し2006年度から薬剤師国家試験の受験資格として6年間の教育と長期実習を課すことになった.このため,薬科大学における教育に大きな変化が訪れ,日本のすべての薬科大学は薬剤師国家試験受験資格を得る6年制学科に移行した.
しかし,日本では明治に薬科大学が開学して以来,100年間にわたり創薬科学の研究者および技術者の養成を指向するアカデミズム重視の教育と,国家試験取得を前提とする専門医療人の実務教育を指向する2つの異なるキャリアパスをめざした教育内容が併存していた.各キャリアパスへの教育比重のかけ方は大学により異なり,国公立大学では主として前者を,私立薬科大学においては主として後者に重点を置いた教育が行われていたのである.また,このような歴史を背景として,2006年以降も多くの国公立大学および一部の私立薬科大学は6年制薬学科を設置するだけでなく,同時に薬剤師国家資格の取得を必ずしも目的としない4年制の学科(生命科学科などの名称が標榜されている)の併設を選択し,現在に至っている.したがって,多くの薬科大学は異なるキャリアパスをめざす学生の教育を同時に実施するなかで臨床実習を行っている.この点が,薬剤師の臨床実習を考える際に他の医療人教育と異なる点である.例えば,医学部医学科では6年制の医師教育のみが実施されており,看護学校あるいは理学療法士養成機関においても同一学部・学科内に教育目標が異なる学生の教育は実施されていないであろう.
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