講座 「まち」をつくる側からの提言・1
理学療法士と交通工学
目黒 力
1
Meguro Tsutomu
1
1東京都老人総合研究所人間科学系生活環境部門
pp.505-513
発行日 2001年7月15日
Published Date 2001/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551105845
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1.はじめに
「かつての日本の文化は,いわば名人の文化だった.……戦前は,だれも名人であることを平然と要求している社会であった」と司馬遼太郎氏はいう1).あたかも都会の迷路のような道を最短距離,最短時間で走るタクシードライバーのように.また,芸事でも師匠は内弟子に手をとって教えない.「盗め」という.果して理学療法士の教育もいまだに「ぬすめ」なのかもしれない.「個人に対して超人的な能力を求め,目的が達成しなければ一個人の原因に帰する,これがかつての日本文化だ」とも司馬氏はいう.しかし米国は,「親切を機械的に普遍化した文明」というのである.
バリアフリー論は建築の分野で発展し,理学療法士も関わることが多く,クライアントの住宅環境整備などニーズも高い,しかし,「まち」づくりの分野(都市計画,交通計画など)では研究が始まったばかりに等しい.高齢者・障害者に対応した都市・交通とはどのようなものか,アクセシビリティ(ある地点に容易に到達可能かどうか)を確保するために如何なる手段があるのか等,問題は山積している.
理学療法士は「なぜ」そこに関与しなければならないのか.司馬氏のいう「名人の文化」から「親切を機械的に普遍化した文明への移行」とは何か,今回から始まる6回の連載でそこに少しでも近づきたいと考えている.第1回目は,それらを理解していただく目的で,「まち」づくりの基本的な概念,用語,問題点等を交通工学的観点からまとめることとする.
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