- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
従来から理学療法において歩行分析が重視されるのは何故であろうか.人類学の立場からみてヒトの直立二足歩行(gait)は,多くの動物の移動(locomotion)と比べ,非常に高度にプログラム化された移動手段である.定義的にはヒトが空間的移動を行う運動であり,姿勢や四肢の運動形態もその対象とされている(正確には歩容という).つまり歩行(歩容)とは,人間のあらゆる身体運動機能の統合とコントロールにより達成された質の高い運動である.それゆえ,歩行分析により正常べースからの逸脱を1つ発見することで,そこから多くの身体機能不全の情報を読み取ることができるのである.
では,この情報は臨床でどのように活かせるのだろうか.その答えは,歩行分析から得られる情報のもつ意味と情報間の関係を深く理解することから始まる.我々が臨床で歩行分析を行う最大の目的は,障害原因の究明とその程度の定量化によって治療にフィードバックすることである.すなわち,患者にいかに最適な治療を提供できるかである.このように考えると,我々臨床家に求められる「分析」とは,運動をあらゆる角度から整理分解し情報化することだけに止まらず,持てる知識を総動員しての,問題解決に向けた積極的行為1)でなければならない.そのためには,より深い情報の集積と統台が不可欠である.
本講座では,変形性股関節症(以下,変股症)疾患を取り上げ,その時間的・空間的逸脱をスタンダードな歩行分析から紹介し,次にふだん観察するだけでは見いだしにくい障害の一面を最新の分析方法を用いて紹介する.更に,過去の文献と合わせ,科学的データの考察を加えながら変股症疾患の歩行時の障害像に迫ってみたい.
Copyright © 2000, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.