講座 高次神経機能障害のリハビリテーション・1
遂行機能障害
藤森 美里
1
,
森 悦朗
1
Fujimori Misato
1
1兵庫県立高齢者脳機能研究センター臨床研究科
pp.359-364
発行日 1999年5月15日
Published Date 1999/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551105314
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はじめに
人が効率よく行動するためには環境に即応しなければならない.目的をもって適切に行動し,状況に応じて行動内容を変更し,内的衝動の影響を受けないことが必要である.更に,計画を立て,現在進行している行動を見守り,計画からのずれを修正し,当初の目的に照らし合わせて行動の成果を検討し,必要な補正をする能力が要求される1).これら一連の行動に必要とされるのが,遂行機能(executive function:実行機能,管理機能と訳されることもある)である.
遂行機能とは,目的の達成に必要な行動を成しとげるための能力であり,他の認知機能とは多くの点で異なっている.遂行機能が正常であれば,他の認知機能の障害をある程度代償し,独力で生産的な行動をすることができる.しかし遂行機能が障害されると,認知機能が保たれていても(つまり知識や技能の検査得点が高くても),セルフケアを自立したり,独力で仕事をしたり,正常な社会的関係を維持したりすることができなくなる.また,認知障害は特定の能力や機能に生じるのに対し,遂行機能障害はあらゆる行動に影響を与え,さまざまな課題を遂行する方略や行動の制御を直接的に障害してしまう.
本稿ではまず遂行機能の定義について,次いで遂行機能障害の症候学と神経心理学的検査について述べる,その後に症例を呈示し,最後に遂行機能障害とリハビリテーションの関わりについて触れる.
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