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はじめに
リハビリテーションの対象となる悪性腫瘍患者は以前は,乳癌の術後の肩関節可動域制限のある患者や悪性脳腫瘍による運動麻痺を呈する患者が主であった.しかしながら,最近は本誌においても1990年に特集がくまれた「ハイリスク・体力消耗状態」1-4)にある悪性腫瘍患者までを対象とすることとなった.
「ハイリスク・体力消耗状態」1)とは,その定義が直接的に生命に危険のある状態という疾患レベルの特徴,そして原因疾患自体が運動障害をもつものではなく,体力が低下しADLの障害(disability)が生じたような状態という障害レベルの特徴をもつということからわかるように,疾患レベルのリスク管理と同時にdisabilityレベルへのアプローチの両者の技術の向上によってはじめて対象とすることができたものである.
この「ハイリスク・体力消耗状態」にいたるほど重症・重度ではない悪性腫瘍患者のリハにおいても,「ハイリスク・体力消耗状態」のリハ・アプローチの原則,すなわち①疾患レベルの状態把握,①Disabilityレベルへの直接的アプローチ,③自己訓練の徹底を含む少量頻回訓練,④病棟「活動度」の指導,⑤直接リハ医が治療・訓練を行う必要,⑥インフォームドコオパレーションによるリハの基本方針の徹底5-6)は基本となる内容であるので,ぜひご一読いただきたい.
さてここでのリスク管理とは危険であるからリハを中止するためのものではなく,逆にスパルタ的に訓練を行うためのものでもない.リスク管理とは,リスクが生じない安全な範囲で最大限のリハ効果をあげるために,どの程度の運動負荷をすればよいのかを決定していくことであり,「しているADL」をきめ細かく設定していくことである7).リハを施行するうえでのリスクは,運動負荷が増加することによって,初めて顕在化する問題も少なくない.例えば,新たな負荷によって骨転移のある例が病的骨折をおこしたり,安静時には明らかでなかった呼吸障害や心筋障害が明らかになるなどである.さらに悪性腫瘍患者の合併症は突然出現することが多いので,毎朝患者を診察し検査データを確認するなどのチェックをして疾患レベルでの変化の方向を細かく把握していくことが必要である.このようにリスクを運動やADLとの関係で的確に予測し顕在化しないようにすることがリハにおけるリスク管理である.
悪性腫瘍患者に対するリスク管理の具体的方法は,原疾患の状態,原疾患の治療内容,そしてリハ・プログラムの具体的内容によって異なるものである.そこで本稿では,悪性腫瘍患者のリハ施行におけるリスク管理上問題となる主要な点について述べることにする.
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