Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
悪性腫瘍細胞の抗原性や宿主の免疫機能が解明されるにつれ,免疫療法の範囲を定めたり,定義したりすることは逆に困難になつたように思われる.悪性腫瘍を摘出した場合,大手術であればそれ自体免疫抑制的作用をもち1),他方腫瘍が除去されれば血清中のblocking acti-vity(免疫リンパ球の抗腫瘍作用を阻止する血清中の因子による作用)が低下し治癒に有利な条件がつくり出される2).どんな治療手段も癌対宿主の免疫機能の関係に影響をもたずにはすまされないのである.
Mathe3)は手術あるいは放射線療法によつてはわずかに40%の悪性腫瘍が一掃されるに過ぎず,化学療法は特定の腫瘍を破壊するのみでありこれらを補う治療手段の必要を強調している.恐らく,手術,放射線により治癒した患者のかなりの%は,自らのもつ免疫反応によつて生き残つた少数の癌細胞を破壊しえた結果であると思われる.化学療法は強い免疫反応を起す腫瘍,胎盤性chori-ocarcinomaやBurkitt腫瘍に特に有効であることも知られている.前者は宿主にとつてallograft腫瘍であり,確実な自然治癒例もよく知られている4).一般に制癌剤が功を奏するためには宿主の免疫の存在が不可欠であり,とくにT細胞の機能が重要であるという5).Ryanら6)がE.coliに由来するL-asparaginaseをマウス6C3HED,L5178Y腫瘍に使用した実験は興味深い.腫瘍移植と同時投与では効果なく,3乃至9日おくれて投与すると効果があり,とくに9日おくれて投与すれば完全治癒をもたらすこともできる.生き残つたマウスに2度目の腫瘍移植する場合にも,L-asparaginaseをおくれて投与してあつたものによりつよい抵抗の発生があつた.L-asparaginaseには抗腫瘍作用とともに免疫抑制作用もあるので,移植と薬剤投与との間隔にも興味があるが,更に,抗リンパ球血清やコバルト照射で宿主の免疫抑制をおこなうとこれらの現象は起らなくなり,完全な治癒は稀になつてしまうという.化学療法における宿主の免疫機能の重要性をあらためて痛感せしめられる.免疫療法と名づけられる治療法は,最近大きく評価されようとしているBCGでさえも,単独では強力な治療法とはなり得ない場合も多いと思われるが,症例をえらぶこと,他の治療手段との併用,投与する時期をえらぶことなどにより,すぐれた効果を期待することもできると思われる7).ともあれ悪性腫瘍の治療において免疫をなおざりにすることのできない時代となつてきた.
Copyright © 1974, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.