- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
今回与えられたテーマは,「神経筋疾患患者の運動療法とリスク管理」であるが,一概に神経筋疾患といっても,急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)や,多発筋炎(PM)などの自己免疫を介する炎症性のものから,進行性筋ジストロフィー(PMD)や遺伝性運動感覚性ニューロパチー(HMSN)などの遺伝疾患,さらに筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの原因不明の疾患まで多種多様であり,その進行経過(予後)も,急速に進行するものから,緩徐進行性のもの,一過性のもの,再燃を繰り返すものなど様々である.これら全ての疾患に対する運動療法のリスク管理を全て述べるにはあまりにも大きなテーマであり,誌面の都合上不可能である.したがって,神経筋疾患のうち,リハ的に重要と思われる病態にそって,運動療法の適応とそのリスク管理について述べることとする.
リスク管理とは単に危険を予知しそれを回避するというだけの消極的なものではなく,むしろ疾患の病態に応じて,起こりうる危険を十分知り,それをコントロールしながら安全な範囲で最大限のリハ効果を引き出すことのできるリハ・プログラムを作成すること1-3)に他ならない.このような積極的な(これはスパルタではなく,きめ細かなアプローチをするという治療者側の態度4))立場に立たない限り,神経筋疾患のように運動療法によって過負荷(overwork weakness/damage)が生じる危険が大きい疾患に対するリハ2)は,リスクを無視して非常に危険なことを行って患者に害を与えるか,逆に極めて消極的なものに終止するかのどちらかに陥りやすく,到底正しい効果をあげることはできない.
すでに大川ら3),により,筋力増強訓練の処方基準として,神経筋疾患についての具体的なoverwork weaknessの評価の方法とリハ・プログラム作成の上でのリハの基本方針の重要性,また能力障害レベルでのアプローチの重要性等が強調されているが,まだこのようなアプローチが普及しているとはいいがたい.その原因の1つは,病態を正しく捉え,リハ的に適切な運動量を設定することのできる,疾患とリハの両面にわたる知識を併せもったリハ医がまだ日本には少ないということがあげられる.今回はこのような現状を踏まえ,理学療法士(以下PTと略す)などのリハスタッフが,どのようにして疾患の病態を把握しながら,適切な運動量を評価し,安全で効果的なリハ・アプローチを行っていくかについて述べることとする.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.