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Ⅰ.初めに
私たちの日常生活は,さまざまな生活行為の連続から成り立っている.この生活行為とは,目的をもつ行動であり,生理的欲求,精神的欲求,社会的欲求を満たすための行為であると言える.
高齢により身体の衰えに伴い,生活行為の遂行にさまざまな支障が発生し,周囲への依存が増していくことになる.
そこで,生活行為を成立させるためには,さまざまな援助が必要になる.この生活援助の行為を介護と位置付けたい.
この生活行為,つまり介護は,前述のさまざまな欲求を満たすために身体的な生活行為の代行援助と,家事機能の補完とが含まれる.介護と言えば,とかく身体的な援助と受け止められがちであるが,家事機能の維持補完が生活の基盤になることを強調しておきたい.
この介護の目的を実にみごとに表現している一文を紹介したい.
一番ヶ瀬康子氏は,次のように書いている.
「人間はいかなる時でも,人間が信じられなくなったときほど不幸なことはない.ことに人生の最終段階で,それまでその人がどんなに栄耀栄華をきわめた人でも,まるで物のように扱われ,また侮蔑されて,この世を去るならば,それほど不幸なことはないであろう.
介護という仕事は,人間の尊厳とプライドを保持することであり,人権保護の最後の仕あげをすることである」1).
こうした介護の場としては,施設と在宅とがあるが,ホームヘルパーの経験を通して,在宅における介護について述べてみたい.
ホームヘルパーとして,多くの高齢者や家族に出会い,生活にふれ,人生を垣間見てきた.そして言えることは,高齢者の生活は,家庭全体の生活の反映であり,また高齢者の状況が,家庭の在りようを左右しているということが言える.
さらに,たとえおむつに包まれていようと,全面依存の寝たきりの状態であっても,「住み慣れた地域で,親しい人に囲まれて過ごしたい.」という願いがあり,重度の生活障害を抱えながらも,在宅生活を望んでいる人たちが多くなっている.
しかし,こうした願いをかなえる条件が整っているとは言い難く,介護する家族も介護負担の増大から,健康を損ね,精神的にも不健康になり,経済面,住宅面,家族関係に至るまで生活上の問題が多様化してきていることは周知のとおりである.
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