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Ⅰ.初めに
関節可動域(Range of motion,以下ROMと略.)の計測は,整形外科や医学的リハビリテーション領域の診療に際して必須の検査項目である.その点からしても,健常者の可動域を知ることは重要である.
健常者のROMについては,1914年,10名の兵隊の四肢の主要関節および体幹の計測について柏1)が報告している.また,Glanvilleら2)も同様に10名の健常男性を対象にした四肢の主要関節および体幹の計測について報告している.その後も多くの報告があるが,これらも含めこれまで報告されてきたROMは,母集団の年齢に偏りがあること,計測方法も発表者によって異なることから,その値を相互に比較することは困難であった.こうした中で,ROMの測定方法について,1974年に日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会の両学会が,American Academy of Orthopedic Surgeon3)(以下,AAOSと略.)を骨子とした,解剖学的基本肢位を0°としたZero-strating positioningを採用して,ROMテストを公示した4).しかし,このテストは,実際臨床場面で使用する理学療法士や作業療法士のみならず,教育の場においてですら合点のいかない点が多く指摘され,1984年に日本理学療法士協会・作業療法士協会により,ROM計測法が検討され,最終的に「ROM計測の手引き」(以下,協会法と言う.)が発表された5).しかし,いずれの計測法も,その正常値は,その一部がAAOSそのものの引用であったり,我が国の人々を対象とした年齢,性別,左右差についての考慮がされているとは言えない.
そこで今回われわれは,87名の健常男性を18~25歳未満・25~60歳未満・60歳以上の三群に分け,おのおのの下肢主要関節と脊柱のROMを計測し,比較検討するとともに,若干の文献的考察を加えて報告する.
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