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近年,理学療法士の職域の拡大に伴い,四肢体幹の運動器障害や脳卒中片麻痺に代表される神経障害のみならず呼吸・循環・代謝不全を対象とする内部障害に対する理学療法が積極的に行われている.医学の進歩により,疾病構造が変化していることは今に始まったことではないが,理学療法士が治療の対象としているクライアントの高齢化や重複障害化が進行している.78歳,男性,糖尿病,右下腿切断術後1週間のクライアントの運動療法プログラムをどのように立てればいいのだろうか.このクライアントを担当する理学療法士には,糖尿病に関する基礎知識,末梢循環障害を考慮した運動量(運動強度),下腿切断に対する運動療法,下腿義足に関する知識等が求められる.運動強度が過ぎれば左下肢に阻血性の痛みを訴え,最悪の場合には左下腿の切断の危険性が生じるだろう.このような場合,どのようにして運動強度を設定すればよいのだろうか? そうした疑問に本書は的確な示唆を与えてくれる.
本書は,序,実地編,基本編に分けて書かれているが,実地編に大部分の頁が割かれている.まず序では,「運動の功罪」と題し,生活習慣病と医療費の増大,生活習慣病に対する運動の効果,中高年の運動中の事故とその対処について述べ,本書を執筆した意図を明らかにしている.実地編では,第1章で「健常者に対する健康維持増進のための運動処方」について記述されており,中高年者や女性の生理学的な特徴と運動処方の留意点について書かれている.特に妊婦の運動処方の項は興味深い.第2章では,肥満者の減量のための運動処方,糖尿病患者,高脂血症,高尿酸血症,高血圧症,虚血性心疾患,その他の心疾患,呼吸器疾患,腎疾患,肝疾患,片麻痺患者に対する運動処方が其々の疾病の定義,病態,治療,運動処方の有効性,適応と禁忌,運動処方の実際,留意点について記載されている.基本編では,第1章で「運動処方の運動生理学的基礎」について,第2章で「運動処方総論」について述べている.通常,総論的な事項が前に置かれるが,各論の後に総論を置いた点に著者らの企図を感じる.
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