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はじめに
人間が様々な運動を学習する際,実行した運動に関する感覚フィードバックは重要な役割を担う.特に,運動を実際に行う自己の身体に由来した体性感覚は本質的な役割を果たしている.体性感覚のうち,特に四肢の空間的位置や動きに関する固有受容感覚入力に障害がみられる患者では,わずか10cm程度しか手から離れていない目標に向かって手を伸ばす場合でも,正確な手の到達運動ができないことがある1).このような患者でも,自分の手や腕の動きに関する視覚情報があれば,正確な到達運動が可能になる.ところが,視覚の助けによって,いったんは改善したかのように見えた到達運動も,自分の手の視覚情報を遮断されてしまうと,わずか1分後には乱れ始め,数分後にはまた軌道は大きく外れる.このような現象は,健常者では観察されない.到達運動に限らず,手指第一指と残り4指との間の対立運動でも同様の現象が報告されている2).すなわち,視覚の助けがあると正確な対立運動が可能になるが,閉眼でこの運動を行うとわずか30秒で正確な運動ができなくなる.もちろん健常者は閉眼であっても正確にこの運動を行える.
つまり,このような患者では,視覚の助けがあると一時的に正確な運動が可能になるが,体性感覚入力がないため,運動を獲得しにくいと考えることができる.実際,第一次体性感覚野(以下,体性感覚野)を破壊されたサルでは新規運動の習得が困難になることが示されている3).これらの事実は,2つの重要な点を示している.1つは運動学習における体性感覚の重要性であり,もう1つは運動制御における視覚の有用性である.そこで,本稿では主にこれらの感覚に注目し,その運動制御や学習に及ぼす影響について概説する.
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