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はじめに
固有受容性神経筋促通法(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF)は,1950年頃にKabat,Knott,Vossによって開発された神経生理学的アプローチの1つである1).当時はポリオの後遺症に対する手技として開発されたが,骨関節疾患,中枢・末梢神経疾患などの治療と幅広く用いられるようになった.PNFは,その発祥の地であるカイザー・リハビリテーション・センター(Kaiser Foundation Rehabilitation Center:KFRC)において,半世紀以上を経た現在までその技術が世界中のセラピストに伝えられている.
日本国内においては,KFRCに渡って学んできた理学療法士やアメリカから日本の理学療法士を教育・養成するためにやって来た理学療法士からその技術が伝達され始め2),現在も日本理学療法士協会(JPTA)や他の団体によるPNFの講習会が数多く実施されている.最近の日本理学療法士協会全国研修会や理学療法学術大会3~5)でも取り上げられ,PNFを学術的に展開するための学術集会なども開催されている.また,日本の理学療法士教育機関におけるPNFの教育についてみてみると,それは約40年前から始まっており,佐藤による2008年度の調査では,87.7%の養成校がPNFの講義を行っているという6).
本稿では中枢神経障害(脳卒中)に対するPNFについて述べていくが,アメリカ理学療法士協会によるSTEP会議にみるように,神経生理学の発展,理学療法のあり方の変化などにより,中枢神経障害に対する理学療法は近年大きく揺らいでおり,国内においても同様である7~10).また,日本脳卒中学会による脳卒中ガイドラインでは,運動障害・ADLに対するリハビリテーションの中で,「ファシリテーション(神経筋促通手技)は行っても良いが,伝統的なリハビリテーションより有効であるという科学的根拠はない.」としており,ファシリテーションのエビデンスを示すうえで,伝統的なリハビリテーションとの比較において無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)による証明がされていないことが挙げられている11).
本稿では,そのような中にあってなぜこれほどPNFが広く長く受け入れられているのか,また,その今後の可能性や課題について,私見を述べる.
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