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はじめに
中枢神経疾患に対する運動療法の変遷と動向というテーマは,古くも新しくもあり,常に問われる問題である.この問題を考える場合,中枢神経疾患に対する運動療法の理論と実践の関連性や理学療法とリハビリテーションの関連性,運動行動発現の理解などといった視点でとらえると糸口が見えてくるように思う.言いかえれば,障害モデルと生活モデルにおける理学療法の位置づけや運動制御や運動学習のメカニズムに対する脳科学の寄与,根拠に基づく実践などがキーワードとなる.
中枢神経疾患に対する運動療法の理論と実践を結び付けようとする試みは,アメリカ理学療法協会が先駆的に開催してきた一連のSTEP会議注)に見ることができる.わが国における中枢神経疾患の運動療法に関する教育と実践は,この会議に関連する記事が多くの論文に引用されており,影響を強く受けていると言える1~8).
では,NUSTEP・ⅡSTEP・ⅢSTEPの各STEP会議は,われわれ理学療法士をどのように導いてきたのか,また,この3つのステップは何だったのか.
NUSTEP以来,40年有余のこの年月は,日本の理学療法(士)の誕生と発展の歴史と言ってもよい.この40年有余の年月の中で,日本の理学療法教育システムは様変わりし,理学療法士自らが理学療法の科学性を追及できるまでに成長した.また同時に,障害から可能性へ,構造と機能から機能と適応へというリハビリテーション医療における対象者への視点の転換は,理学療法士の行動を大きく変容させたと言えるのではないだろうか.これらの日本における理学療法の世界の変貌はSTEP会議のステップの過程を考えると透けて見えてくるように思える.本稿では,その過程を理解するための階層的記述レベルとパラダイムという概念について,またSTEP会議のもたらしたもの,中枢神経障害に対する運動療法の対象,運動療法のエビデンス,今後の動向について,私情の域を超えられないが記述することにする.
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