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触診は医療の起源としての「手当て」の基本である.医療機器の未発達であった時代では,治療者の手による触診技術が疾病の診断と治療において大きな存在であった.近年の各種医療機器の開発・使用により,体表面からの触診による診断や治療が非科学的位置へと変革している現況を憂う.しかし,正確で高度な触診技術は,医師,看護師,セラピストを含めすべての医療従事者が具備すべき基本的技術である.理学療法においても,触診は疼痛部位の確認や筋緊張の異常状態評価,関節可動域や筋力維持・強化治療における固定,可動,抵抗部位,寝返りや立ち上がり指導時のハンドコンタクトなど,理学療法士が日常の臨床にて理学療法業務を遂行する上で,対象者の体肢に接触して行う普遍的技術である.この場合,対象部位へのファーストコンタクトの巧拙が,対象者・治療者間の信頼関係を決する.また,体表面上から的確な部位への触診を背景とした部位確定,固定,可動が評価結果や治療効果に影響を及ぼす.その意味で,理学療法士は触診技術向上のための弛まぬ学習と努力が必要となる.
本書は,自らも解剖学医学博士である著者の竹井 仁氏(首都大学東京准教授)が解剖学者の監修のもと,解剖学と運動学的知識を背景とした「機能解剖」をベースに,理学療法士が臨床場面で熟知しておく「触診技術」のエッセンスを集積した待望の書籍である.本書は総論,骨・関節・靱帯の関節構成体の触診技術(方法)を記した上巻と,筋・血管・神経の関節周辺組織の触診技術(方法)による下巻の2巻から構成されている.各組織(部位)の機能構造学的な説明に続き,実際の解剖写真を元に作成された多くの図と写真を用いた触診方法がわかりやすく解説されている.また,各触診組織・部位の臨床的意義について記載された「クリニカルビューポイント」は,臨床に直結した重要知識の確認となる.触診は「理学療法評価と治療」の根幹であり,その技術を高めることは「理学療法士の最大武器」として,長年,徒手的治療の臨床,研究,教育指導に従事されてきた竹井氏の強い学問的熱意を感じる.
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